世の中の私だけが不幸。 そう考えてしまった時もあった――― 栞side 未玖の顔は、ずっと私を見ていた。 周りに立ってる皆は、私達をじっと見つめていた。 「……そう、だったの……」 未玖が私の気持ちに気付けなかった事を悔やんでいるような顔をしていた。 「……でも、未玖が…私の事を考えてくれてることは、すごく分かった……」 その時ばかりは…… 少しだけ、友達≠ニいうのが分かった気がして……。 「栞ちゃん、一緒にお昼ご飯食べよっ」 あれから、未玖はことあるごとに私に関わってきた。 勉強で分からないところがあれば、私に聞いてくる。 休み時間になったら、たくさん質問をしてくる。 とにかく、鬱陶しいくらい私に関わってきた。 そして今日もいつもと同じように、昼休みになると私に声をかけてくる未玖。 すると、他の友達が未玖を見て、 「あれ?昼はテニス部の人たちと過ごすんじゃなかったの?」 「えへへー。今日から栞ちゃんも一緒に、って許可をもらったの」 この頃私は、テニス部というのがどんな存在か知らなかった。 ただ、ギャラリーが賑やかな部活、というだけの認識だった。 「あ、ひどい。私達がいくらお願いしても聞いてくれなかったのに」 「あ、はは…。だって、皆がだめだって……」 「未玖は頼み方が下手なんだよ〜っ」 「まぁまぁ……。行こっ、栞ちゃんっ」 まだ、いいとは一言も言ってない私を連れ出す未玖。 そして行き着く先は屋上。 「皆っお待たせ!」 「お、未玖!おせーぞ!」 「そう怒らないっ!今日は、私のお友達がいるんだから」 そして、見たことがあるようなないような人たちの前に出される。 「栞ちゃんっていうの」 「この子か?未玖の一番の友達は」 ……私が? 「うん!それに、栞ちゃんのお友達第1号でもあるの!」 「へー。なら、よろしくな」 未玖の友達であれば、誰とでも仲良くする感じの返事が返ってきた。 ここで、やっぱり貴女の偉大さが分かる。 「………」 何も話さない私。 同姓でも、未玖の連れてきた子とも話さないのに、異性なんかだったら余計に話せない。 それに、男には父のような暴力的なイメージがあった。 「……?」 「あ、栞ちゃんね、恥ずかしがりやさんなの。だから、あんまり話さないけど、無理に変なこと言わないでよ?」 「あーそうなんか。なら、俺達がその照れ屋なところを直したろーやん」 「お、面白そうじゃん」 いい迷惑。 初めは、そう思っていた。 それに、口だけで本当は何もしない人たちだと思っていた。 でもそれは、未玖のおかげでまた違う方向へ進んでいった。 「栞〜、今日部活見にこね?」 昼休みを通して、だんだんと会話が増える。 その度に縮まっていくテニス部の皆との距離。 私の心も、少しずつだけど開きそうになっていた。 「あ、うん……。行く」 自分でも驚いた。 私が、人を見るために動くなんて。 「そうだ!いっその事、私と一緒にマネやらない?」 そう声を掛けられた頃には、もうレギュラーたちとは会話が出来るようになっていた――― その頃。 「………今日から帰ってくるの遅くなるから」 今まで家事全般私一人でやっていた。 それが、テニス部のマネをするとなると遅れそうだから父に告げた。 「……ああ?何だって?」 「……これから、自分の事は自分でやってよね」 すると、座っていた父は立ち上がり、 「っ、てめえまであいつみてぇに居なくなるのかよ!」 そう言うと、蹴る殴るの暴行。 母のことを言っているのだろう。 もしかしたら、それがトラウマになっていたのかもしれない。 「俺はっ、お前まで面倒みてやってんだ!んな勝手なこと言ってんじゃねぇ!」 父は手加減無しで暴力を振るう。 どうして。 なんでまだこんな目に遭わないといけないの。 「っ……」 こんな時、脳裏に浮かぶのは皆の笑顔。 ……ううん、皆の笑顔に囲まれてる、未玖の顔。 ……すごく、幸せそうで……。 「っ何よ!あんたなんて飲んだくれてるだけじゃない!お母さんだってっ…あんたの所為で……」 初めての抵抗だった。 「ってめぇ……!」 父の手が止まったのをいい事に、私は一気に部屋まで走った。 そして、すぐに鍵をかける。 「っ開けろ!二度とそんな口叩けねぇようにしてやる!」 私はベッドにもぐりこみ、必死で眠ろうとしていた。 でも、貴女の笑顔が邪魔をする。 どうして、貴女はそんなに笑っていられるの。 世の中の不幸なんて何も知らないみたいに。 純粋に、心から笑えるの……。 「出て来いっ!」 貴女は、こんなに追い詰められたことはある? 今にもここから逃げ出したくて、逃げても、絶望がまとわりつくような。 そんなふうに。 「っなんで私がこんな思いばかり……」 こんなの、小さい頃から知ってる。 体験しすぎてる。 なら、知らない人に教えてあげればいい。 そう…… 未玖のような――― |