あたたかい。
寂しい。
幸せ。
苦しい。

こう、感じるのは…―――





ここは、どこ?
真っ暗が続いてる。
闇の………、中?
歩いているのに、進まない。
立ち止まっても、振り向いても。
誰も居ない。
私以外。
声が出ない。
喉まできているのに。
声に出すことを恐れている。

ここは、どこ―――?


『未玖、未玖……』


誰、私を呼ぶのは……?
闇?
……違う、光だ。
目の前に一筋の、あたたかな光が見える。
私は、それに向かって歩いてみた。
さっきまで進まなかった筈なのに、今度は進めている。

……ううん、違う。
闇の中だから、進んでいるのが分からなかったんだ。
心の中で呟く。
あなたはだれ?わたしにとってどんなひと?


『起きて、未玖。ほら―――』


光が私を包んだ―――





「……っ……?」
「未玖っ!目が、覚めたのかっ?」


薄っすらと目を開けると、ああ、まだ視界は霞んでる。
私を覗き込む、顔は誰?


「良かったっ…未玖……」


誰かが私をゆっくり抱き起こしてくれた。
光で反射して、きらきらしてるこの髪……。
知ってる。


「っ!?」
「未玖…!」


景吾だ。
私はその腕から抜け出した。


「あ……なんで、どうして……なんで私……生きてるの……っ?」


私の倒れていた場所を見る。
そこには、白いマットがあった。


「っこれ……」


私は、これで死ねなかったの……?


「未玖…。良かったよ、無事で」


私の目線に合わせるように、しゃがむ精市。


「っ…精市……貴方が……」


言うと、ゆっくりと頷く。
良くなんかない。
私は、また死に損ねた……。
そう思うと、さっきまでの自分の決意は何だったのか、問いたくなってくる。


「っどうして、死なせてくれないのよぉ……っ」


自然と涙が溢れ出て、精市にすがりつく。


「……未玖を、失いたくないから。……未玖は、ずるいよ」


精市は、目を細くして私を見た。


「世の中には、生きたい≠ニ思いながらそうすることの出来なかった人が沢山いるんだよ。苦しんでる人が、沢山……」


私は、何も言えなくて黙って話を聞いていた。


「……俺だって、病気の事を聞かされたときは、絶望に突き落とされたよ。もう、大好きなテニスが出来ない……って」
「………」
「でも、俺はここまでくることが出来た。今、俺はあの時の苦しさはほとんど感じていない。……どうしてだか、分かる?」


私は、微かに首を横に振った。


「……生きているからだよ」


ゆっくりと、確信を持って告げた。


「死んだら、それで時が止まってしまう。……でも、生きていたら、まだまだ前に進めるんだよ」


それで、私は思い出す。

さっきの暗闇……。
あれは、死んでしまったらずっとあのままだった?
こうして、生きる事が決まったから、あの時光が私の前に現れてくれたの?


「……ね?だから、俺達と一緒に生きよう?それで、沢山の幸せを感じよう?」
「………っ」


私は、生きることが出来るの?
幸せになることが出来るの?
本当に………いいの?


「誰にだって、そうなる権利……ううん、義務があるんだから」
「…っ、精市……」


私は、少し満たされた気持ちで、精市に抱きついた。


「……未玖…」


周りの皆は、落ち着いてくれた私を見つめてくれていた。


「……未玖、もうひとつ、未玖に知ってもらいたい事が、あるんだ」


精市が私を離し、一人の人物を私の目の前に連れてきた。


「っ栞ちゃん……」


そう、この人―――