もう、何も言わないで。

私の決心は揺らがない。
揺らがせない。

もう、お別れを言いたいの―――





しばらくの沈黙。
少しの風だけが、均等に皆に触れていた。


「未玖…。俺、未玖から逃げてたんだ……」


その沈黙を破ったのは岳人。


「……あの、校舎裏での出来事の後、俺……もう一度戻ってきたんだ…」


悪いと思っているからか、私の顔を見れずに話している。


「っ本当は、あの時助けてれば良かったのに……っ、出来なかった……」


段々と、呟きが叫びに変わっている。


「……あれは、いいのよ。…私だって、助けを求めてなかった……」


私の事で、二人に迷惑をかけたくなかった。
だって、これから練習だったでしょう?
私より、練習に行って欲しくて……。


「っ戻った頃には……幸村が居て……」


精市……。


「俺…、心の中で思ってるだけで、行動できなかった…っ!だから、今はっ……」


ぎゅ、と拳を握る岳人。


「…止めないで。岳人…」
「っやだ…!」
「来ないでっ!」


近づこうとする岳人に、私は怒鳴る。


「…もう、何もかも遅いの…。それに、けじめをつけないと……」


一度、この行為を犯した私。
もう……こうするしか他にないの。


「っ…ほんとに……もう、何も言わないで……」


私の中の決心を確信する。
再び、空を見た。
……まだ会っていない、4人の顔が思い浮かぶ。
景吾、若、精市、そして……栞ちゃん。
これだけの人と話してしまった。
貴方たちとも……話をしたかったな。
そして、下を向いた。


「っ待て、未玖!…もうすぐ、精市が来る……」
「……っ精市…が……?」


弦一郎が、私の動きを止める言葉を言った。


「…ああ。多分、もうすぐ病院から着く頃だろう」
「……びょう、いん……」


病院で起きた出来事が一瞬で過ぎる。
良い思い出など無い。
だって、あんな偽りの記憶―――


「い、嫌…。もう…病院は嫌い……。もうあんな思いしたくないっ!!」


恐怖で身体を逆撫でられてるような感覚がして、目を瞑った。
そして、もう振り返らずに……



落ちた―――――――――