皆を想ってこその決断。
だから、止めないで……。

これが、皆への気持ちなんだから―――





あの人たちは、最も私を憎んでいる人たち。
どうして、あの人たちも、私の元へ来るの?
怖い――――


「っやだ、やだっ…会いたくない…!」


それなら、飛び降りてしまえばいいのに。
私の足は竦んでしまって動かない。
なんて……情けないんだろう。


「っ忍足先輩たちが来たんですか…?」


長太郎が呟いた。
そして、段々と数人の足音が聞こえてくる。
皆だ。


「っ未玖!そこから離れやっ!」


こっちへと向かってくる侑士に、私は恐怖を思い出す。
記憶では、手を振り上げられて……。


「――っ!」
「待て忍足!感情を煽るなっ!」


蓮二が侑士を抑えてくれた。
侑士の後ろには……


「未玖…」
「危ない……よ…っ」


岳人とジロー。
3人が、屋上まで上ってきた。


「……ねぇ、未玖…。危険だよ…。また、俺たちの前から居なくなっちゃうの……?」


ジローが泣きそうな顔で私をこっちへ呼んでいる。


「っ悪かった、未玖…。お願いだ…もう、こんな気持ちにさせんなよ……っ」


岳人も、同じような顔をしていた。
侑士はばつの悪そうな顔をして、


「っ未玖…。全部、俺が間違うてた…。俺は認めるんが怖かったんや…」


視線だけは、真っ直ぐ私を見てくれてた。
……貴方に見つめられるの、凄く久しぶりだよね…?


「っ今、めちゃくちゃ後悔しとるっ…。やから……俺は、未玖に償いたい……」


その目は、本気だった。
……でも私は、その言葉を望んでいるんじゃない…。


「っ…違う…。私は、皆に謝って欲しいんじゃない……」


私は、ただ……。


「…皆に…笑って欲しかった……」
「っ未玖……」


だから居続けたこの学園。
皆の顔が、狂気に変わってしまっても……。
必ず、いつかは笑って……あたたかい雰囲気になってくれるって……。
それが、一番の望みだった。


「……でもっ…それも……だめだった……」


皆は、決してあたたかい雰囲気など、無くなってしまった。
屋上で身体に傷を受け、テニスコートを見下ろす毎日。
その中でも、皆は笑わない。
私が居ないのに。
皆の頭には、多分私の事があるんだろう。


「っそんなの、嫌だった……」


笑顔に満ち溢れていた以前の部活なんて、私の所為で無くなってしまった。
私が存在している≠ニ分かっているから……。


「私が居なくなれば……。皆安心して、笑ってくれるって……」


私が存在していない≠ニすれば。


「っそんなの……全然違うよ…っ」
「っジローは…私に近づいて欲しくなかったんでしょ……?」


あの時、ジローが呟いた言葉。


「っ未玖……あの時……?」
「……まだ、私は起きてた……」


悲痛に呟く貴方の声は、とても印象に残った。


「あれはっ、これ以上未玖に辛い思いをさせたくなくて、」
「いいよ…ジロー。言い訳しなくても……」


そう言うと、ジローは口を噤んだ。


「っ言い訳じゃ、ない……」


その呟きこそ、私には聞こえなかった―――