君が嫌だと言う度に
俺の胸につっかえる鉛の重さが増える。

君が首を振る度に
俺の心が激しく寂しくなる。

もうそんな思いはしたくない―――





宍戸side



「っ着いた……!」


丁度、俺たちが氷帝に着いた時、屋上に未玖の姿があった。


「っ宍戸さん…!」
「早く屋上へ上れっ!」


どうか、間に合え。
俺たちはまだ、言わなきゃいけないことがあるんだ。
心から望んでいた。
そして、


「っ未玖!!」


フェンスの向こうに居る未玖を見つけることが出来た。
……間に合った。
その時は、一瞬だけ安心した。
でも、それも束の間。


「こっちへ戻って来い、未玖!」
「っいや……来ちゃだめ!」


真田が言ったが、未玖は聞こうとしない。
あの時と同じ状況だ。


「っどうしてだよ未玖!」
「もう氷帝の奴はお前さんを憎んでなんかおらん!」
「…でも、だめ……」


未玖は小さく首を振る。
一向に立海の言う事を聞かない。
俺は、どうすればいい?
考えて、俺の口から出た言葉は……、


「未玖っ……今まで悪かった!本当に……未玖は何も悪くない!」


未玖への謝罪の言葉だった。
今まで、言えなかった言葉。


「っ…りょ、う……」


未玖が戸惑った様子で俺を見る。
久しぶりに俺の名を呼ぶ声も、今は嬉しいと思える暇がなかった。


「未玖先輩…俺も、です。貴女に酷い事をしてしまいました……。俺は、未玖先輩に償いたいんです!」


長太郎も、未玖に向かって言った。
俺たちの気持ちは、今度こそ未玖に届くだろうか。


「っちょうたろ……」


未玖の目が揺らいだのが分かる。


「……っやっぱりだめ…!もう、前みたいになんて……」
「っ未玖…!」


未玖の否定の言葉は、俺たちの罪の重さを分かりやすく伝えていた。


「…未玖、落ち着け。とりあえず、こっちへ来い……」


柳が冷静に、でも内心は焦っているだろう。
未玖の両手がガタガタ震え始めたから。


「そ、そうッスよ、未玖さん……。もうすぐ、幸村部長も来るッス……」


切原も、落ち着いて対処しようとしている。
対照的に、俺は今にでも未玖をこっちへ引き寄せたかった。
許されるのなら、な……。


「未玖……なぁ、また一緒に楽しい話しようぜ?」


丸井が切なそうな顔をして、未玖を説得し始めた。


「覚えてるだろ…?前、休日に俺たちのマネやってくれたこと……」
「………」


未玖は小さく頷く。


「…また、俺たちにドリンク作ってくれよ…。笑顔で、俺たちの疲れを癒してくれよ…。…もう、居なくなるなよっ……」
「っそうッス…。俺たち、今度は全力で未玖さんを守りますから……。未玖さんの悩みにも、気付きますから……っ」


ちら、と見てみると、丸井や切原だけじゃなく、立海全員が同じ表情をしていた。


「未玖…。俺たちは、もうお前を失いたくない…」
「お前さんは、誰より大切なんじゃ……」
「っ……」


ようやく、未玖が口を開いた。


「私は……皆を責めてるわけじゃない…。これから守ってもらう事を望んでるんじゃない……」


俯いていた立海の顔が、少しだけ未玖を見た。


「…っここに立った、あの時でも……。立海の皆の事も考えてた……」


未玖は、涙を堪えているような声で言った。
そして、何かを振り払うように、


「……立海の皆。記憶が失くなった私にも、優しく接してくれてありがとう……」


ツツー、と未玖の頬に涙が伝った。


「…凄く、嬉しかった……」


その声は、本当に震えていた。
そして、未玖はゆっくりと俺たちに背を向け……


「……っ!?あ、あぁ…っ」


下を見て、怯えの表情を見せた。


「な、んでっ…あの人たちも……っ!?」


俺も視線を下ろした。
そこには……
忍足たちの姿があった――――