死ぬよりも
もっと辛くて残酷な事。

神様は 残酷だ―――





「……ここ…は?」


神様は残酷だ。


「……私……何でこんな所に……?」


やっと地獄から、抜け出したと思ったのに。


「……あれ?」


神様は残酷だ。


「私……何で傷だらけなの?」


まだ、この少女に試練を与えた。


「思い……出せない」


神様は、少女の願いを叶えずに、


「私は……どうしたの……っ?」


中途半端に、記憶だけを奪った。





「事故の後遺症です」
「……事故?」


落ち着いた老齢のお医者さんはそう言った。
私は思わず言葉を繰り返した。


「そう。事故があって……そのショックで、君は記憶を失ったんだ」
「……私の失った記憶って……何ですか?」
「ゆっくり、思い出してごらん」


動揺で思わずお医者さんに聞いてしまう。
それを、また落ち着いた態度で私にそう促した。
私は言われた通り、ゆっくり遡って考えてみる。
自分の事は分かる。
身内も分かる。
小さい頃の記憶もある。
……あれ?


「中学……私は、どこに通って……」
「……中学生からの、記憶が無いんだね」


中学…私は何をしたの?
……勉強?
……友達?
……部活……?


「――……っ!」


一瞬、頭に激痛が走った。


「無理に思い出そうとしたらだめですよ」
「……は、い」


私は担当医の人からしばらく入院するよう言われた。


「……病院、か」


事故って……何なんだろう?
いろいろ考えても脳に悪影響だからと、そのことも教えてくれなかった。
……思い出せない。
……思い出したくない……?


「や……怖い……っ、私……どうしたの……っ?」


とても、不安になった。
自分のことなのに、何も思い出せない。分からない。
ここに本当に自分がいるのかさえ不安になった。
私は生きてるの?
私は……生きてていいの?
思い出せない……っ、だから、怖い……。


「う……、あ……っ」


震えが、止まらない。
誰か……誰か助けて……っ!


「未玖っ!?」


あれ……?
この声……聞き覚え、が……。


「……せ…いい……ち?」
「俺だよ、未玖」


この、優しい声……小さい頃から知ってる……。


「せ、精市……っ?」


幸村精市……小さい頃からの幼馴染だ……。


「……未玖っ」


精市は、私を優しく抱きしめてくれた。
……嬉しい。温かい。優しい。
何だろう……?
ずっと、こうされたかったような気がする。

……別の、誰かに。





幸村side



その話を聞いた時は、嘘だと思った。
悪い、冗談だって。
だって……あの時、頑張るって言って……。
いつか、分かってくれる……って。

信じたくなくても、足は未玖の病室に向かってた。
そして、未玖の病室に入った時。


「う……、あ……っ」


震えている未玖を見つけた。


「未玖っ!?」


俺は……全部知ってたんだ。
未玖が、学校でどんな酷い事をされているか。
学校で、どんな卑劣な行為を受けているか。


「……せ…いい……ち?」


知ってて……助けてあげられなかった。


「俺だよ、未玖」


断片的に記憶を失った事も聞いた。
俺の事も、忘れてくれていいと思った。
何もできなかった俺のことなんて。


「せ、精市……っ?」


でも、未玖は、俺の事を覚えててくれた。
こんな頼りない俺なのに、手を伸ばしてくれた。


「……未玖っ」


気付いたときは、未玖を抱きしめていた。
久しぶりに触れた未玖の身体は、前より小さく細く感じた。
そして、今度は、絶対に守ってやりたい。
そう思った。