私の最期を告げた場所。
今では、とても懐かしい。

でも

そう感じるのも、今だけ―――





「あ、はは……懐かしい……」


屋上から下を見下ろす。
あの日、あの時の景色と全く同じだった。


「……どうして、死ねなかったんだろ…」


すぐ真下は芝生。
頭を打って……私は記憶を失った。


「…っこんな、中途半端に……」


私は、神様を恨みます。
どうしてあの時、安らかに死なせてくれなかったんですか。
どうしてあの時、何もかもから解放してくれなかったんですか。
そうすれば、今みたいに辛い思いしなくてもよかったのに。


「…あの日で、皆に会うのは最後だと思ったのに……」


皆に、私の最期を見てもらおうと―――





「っ、何してんだよ」


あの時、私が皆を屋上に呼んだ日。
丁度皆がドアを開けた時には、私はフェンスに手を付けていた。


「……皆、来てくれたんだ」


本当は、来てくれないかと思っていた。


「……何をしてると聞いている」


景吾が私を見つめる。
その目は、私を止めようとしてくれているの?


「……皆に、最期のお別れを言いに」
「っ何バカな事言ってんだよ!」


亮が叫んだ。
……私は、本気だよ。


「…貴方たちが望んでいるのは、これでしょ…?」


私はフェンスに足を掛ける。


「やめて!危ないよっ!」


ジローが近づこうとする。


「っ来ないで!!」


でも、その動きは私の叫びで止まった。
私は、初めてというくらい大きな声を出した。


「……だって…これ以上無理なんだもの…」
「っだからって…そんな……」

「こうしたのは皆だよ」


言うと、皆の顔が歪む。
それは、怒りじゃない……?


「……大丈夫。もう…迷惑は掛けないから……」


完全に、フェンスを越えた地点に立った。


「っ未玖…」


悲痛な声で、私の名前を久しぶりに呼んだのは……。


「……景吾…。……もうっ、だめだよ……」


小さく呟く。
その言葉、貴方には聞こえた?
背中を向けた私の行動を悟ったのか、次々と皆が叫ぶ。


「やだ……やだよっ、未玖!」
「本当に危ねぇ…っ!」


ごめんね、皆。
私、こんなに弱虫で。


「これで…楽になれる」


私は、皆から逃げようと―――


「っやめろ未玖…!」


さようなら、皆。


「やっと…自由になれる」



それは、翼を与えられた小鳥のように。
ただ、空だけを見て――――堕ちた。


それからは何も聞こえない。
風だけが私の耳元を過ぎっていた。
強いて言うなら、見た。
皆の、私を見下ろす顔。
視界が涙で揺れていたけど、少しだけ見えたよ。

…………皆………顔を歪めていた。
悲しみ……なのかな。
でも、私は悲しくなんてなかった。

やっと解放されたと思ったから。
たとえ、一瞬の安心でも―――





「……今度は、一人で……」


誰にも最期を見られなくてもいい。
一人で、安心して………飛び立たせて―――