……悪いとは、思ってる。
いや、それ以上に…。

俺は、俺を恨んでる。

貴女に酷いことをしてしまった俺を―――





皆の本音を聞いた日程辛い日は無かった。
だって、皆の方が辛そうなんだもの。
皆のそんな顔を見るのが本当に辛いんだよ……。
呟いたつもりでも…私にはちゃんと聞こえたんだよ?
そして、皆私から離れていく……。

だから、私は―――





日吉side



ギリ。
何度か歯軋りをしてしまった。
俺は自分が嫌になる。
あんな女の演技に気付けなかったなんて。
未玖先輩を疑ってしまって。
これ程自分を恨んだ日は無い。

……あの時程、自分を呪ってやりたい気持ちになった日は無い―――





それは朝の出来事。
……そう、未玖先輩が塚原先輩を虐めていると分かった次の日の朝。


「………憂鬱だ」


その日は朝練が無く、更に苛々していた。
昨日は何人か道場で吹っ飛ばした。
それでも、この気分は晴れない。


「………少し動かすか」


俺は一人で練習でもしようと部室に向かった。
そこには……


「っ……あ、若…」


未玖先輩が居たんだ。
自分のロッカーから荷物を出している。


「……何であんたがここに居るんですか」


俺は眉を寄せ聞いた。
昨日の今日だ。
一番、会いたくない人物だった。


「…っえと……今日から、仕事出来ないから……」
「何言ってるんですか。元々してないくせに」
「っ……それは……」


言いかけて、先輩は俯いた。
ほら、図星でしょう。
未玖先輩の気持ちなんか考えずに、率直にそう思ってしまった。


「……早くして下さい。目障りです」
「…分かった。もうすぐだから……」


さっきより手つきが早くなり、鞄に荷物を詰め込む。
俺は、それが終わるのを待った。


「………あ、あの…」
「……何ですか」
「……今までの記録とか、部誌は……こっちの棚に置いておくから……」


小さな声で、棚に仕舞いながら言った。


「…どうせ全部、塚原先輩にやらせたんでしょう?そんなのいちいち言わなくて結構です」
「………ごめんね」


未玖先輩はそれだけ言うと、鞄を持って部室から出ようとした。


「……まだ学園に居る気ですか」


気付くと、俺は聞いていた。


「………うん」


未玖先輩は俺に背を向けたまま答えた。


「……これからされる事は分かっているでしょう?…それでもですか?」
「……うん、そうだよ」


何故なんだ。
傷つけられると分かっているのに。
全員を敵に回しているのに。
どうして貴女はここに留まる?


「ここから出て行ったらどうですか?」


冷たく、言葉を放った。


「っ……だめ、だよ…」


俺は貴女に出て行って欲しい。


「………どうしてもですか?」
「…うん」
「……そうですか。…なら、俺は知りません」


貴女は馬鹿ですよ。
自ら、傷つきに行ってるようなもんだ。


「………」


未玖先輩は黙って部室から出て行った。
俺はまた気分が重くなった。
何で、自ら傷つく必要がある?
何で、逃げようとしないんだ……。

何で逃げてくれないんだ―――





「……っち」


あの時の後ろ姿は何かを決心したような後ろ姿だった。
でもその後ろ姿は、飛び降りる時とは違っていた。
寂しそうで
悲しそうで
なのに
貴女の飛び降りた後の顔は悦びの表情だった。

それは、どうしてですか?
何を想ったんですか?
最後に、何を考えていたんですか?

貴女に聞きたいことは沢山あるんですよ。
それに……
言いたいことも、沢山あるんだ……。
なので、お願いです。


もう一度、貴女に会いたい。