大好きだからこそ
離れなきゃいけなかった。

想う気持ちがあったから
離れたかった―――





幸村side



少し振るえ始めた塚原さんを、ベッドに座らせた。


「……こんな…自分を傷つけるなんて……誰だってしないわよ……」


俺の顔を見ず、下を見つめて言った。


「……うん、そうだね」


俺は、合間に相槌を打つだけにした。
彼女の邪魔をしないように。


「……一番初めから話すと……」


彼女は、少し考えて、


「……私には、父が一人いる。…母は、私が小さい頃出て行ったの」
「………」
「…でも、私は今、一人暮らしをしている」
「………」
「それが何故か、分かる―――?」


その後の話は、俺が考えもしなかった話だった。





芥川side



今、俺たちは必死になって氷帝へ向かってる。
……こんなに全力で走るの、凄く久しぶり…。

未玖に会える。
それだけで、こんなに必死になってるんだ。
俺の気持ち……奥に閉まっていた気持ちは、あの頃と変わらないから―――





「………授業なんて受ける気になれないC…」



いつもは午後からたまにサボるだけだったけど、今日は朝からサボった。
未玖と会ってない。
それだけで、こんなにも気が抜ける……。
未玖は、他の誰ともクラスが同じじゃない。
多分、皆も未玖に会ってないC…。


「……ふぁ」


短い欠伸が出た。
そして、屋上のドアを開ける。


「…っ!?」


そしたら、未玖が居たんだ。
膝を抱えて、小さくなって。
肩をカタカタ震わせてる未玖が、今目の前に。


「………未玖…?」
「っ?…あ、……」


俺を見た瞬間に、凄く怯えた表情を見せる未玖。
違うよ。
俺はそんな表情を見たくないんだ。
前の……キラキラした顔が見たい。
いつもそう思ってた。


「……未玖、俺…」
「ゃ、だっ……来ないで……っ」


俺から向きを逸らし、硬く目を閉じる未玖。
どれ程怯えていたんだろう。
一人で、どのくらいの辛さを味わったんだろう。
考えだけが、俺の頭を過ぎった。


「………」


俺は、その姿を見て何も言えなかった。
……実を言うとね、未玖。

俺は、未玖が大好きなんだよ。

ずっと、ずっと……俺の心には何時も未玖が居た。
ほんとに、大好きで……。


「……ジ、ロー…っ来ないで……」


俺の名前を呼ぶ声、恐怖に満ちていた。


「……安心してよ、未玖。…俺は、未玖に暴力なんかしないC……」
「………?」


それを言うと、少し恐怖から逃れた顔が俺を見る。


「…だから、そんなに怯えないでよ……」


見るのが辛い。
凄く、抱き締めたくなっちゃう。
こんなか弱い未玖を見ると。
好きっていう気持ちが凄く溢れてくる。


「……ほん、と…?」
「うん」


でも、ごめんね、未玖。
俺……未玖を守ることができない。


「少し、ここに居るね」


俺は未玖の隣に座った。
特に、何も話さなかったけど。
今日は暖かい日だった。


「……ねぇ、未玖」
「……ん…何…?」


少し、未玖が眠そうなのに気付いた。


「……寝ていいよ。あまり、無理しないでね」
「……ありがとう」
「………それと、最後に一つ」


最後、と言ったのは、もう俺は未玖に会えないと思ったから。
未玖は、寝る寸前だった。


「もう俺に近づかないでね…」


そして未玖は目を閉じた……。
俺は未玖を守れないから。
何で、って……未玖が大好きだからだよ。
未玖の近くに居ると、この感情が膨らむ。
だからこそ、辛いんだ。
こんな……弱々しい未玖を見ると、凄く心が痛む。
守ってあげたいのに、傍に居られないんだ。


「……ごめんね、未玖」


俺は立ち上がって、屋上から去った。
少し離れた所で、宍戸が屋上に上がろうとしたのも、止めなかった。





「っ……」


今でも、この気持ちは変わらない。
でも、未玖が飛び降りて、考えが変わったんだよ。

守らなかったから、未玖を失ってしまった。
……それなら、まだあの時未玖の姿を見ている方が良かった。
記憶を失った未玖を見るよりは……。

だから、俺は必死になって、
未玖に会いに行くよ―――