俺は、こんな事望んでいなかった。
俺は、ただ皆と楽しくテニスがしたかった。

その願いは、儚くも崩れ去った。

自分の手で―――





「う、うう……っ」


とうとう着てしまった。
氷帝に。


「……静か…」


今は休日。
誰も校舎には居ない。
今、氷帝には私だけ。


「……すぐに…けじめをつけるから……」


私はゆっくりと、氷帝の土を踏みしめながら。
ある場所へ向かった。
そう……


屋上へと―――





鳳side



俺と宍戸さんは、立海の皆さんと氷帝へと向かっていた。


「……未玖っ…無事で居てくれ……」


誰もが、未玖さんの事を考えていた。
俺も、その内の一人。
未玖さんには……酷い事をしてしまったから……。





「………」


その日、初めて俺は授業をサボった。
……席に座っていても、授業の内容が頭に入らなかったから。
頭が痛いと嘘をついて、保健室へと向かおうとした。


「……もう、何で…っ」


そして少し苛々していた。
昨日も、今日の朝練も、テニス部は暗かった。
誰も必要以上話さない。
俺には、それがどんどんストレスになっていた。


「……何でこんな事に……」


それは、決まっている。
あの……未玖先輩が栞先輩を虐めているということが分かったから。


「……全部、全部……あの人の所為だ……」


俺は、頭を抱えながら廊下を歩いていた。
すると、


「…………あれは…」


前から、見覚えのある姿が歩いていた。
ヨロヨロと危なっかしく歩いている姿。
久しぶりに見た姿。


「……未玖…先輩……?」


確かに、未玖先輩の姿だった。
未玖先輩は俯いて、俺に気付いていないのか、そのまま通り過ぎようとしていた。


「……まだ居たんですか」
「…!」


言葉が出てしまった。
未玖先輩は、驚いて俺の方を見た。


「……っ」
「貴女の所為で、部活はめちゃくちゃですよ」


俺の中の苛々が、未玖先輩へと向かった。


「っ……でも…私は……っ」


『でも』
未玖先輩は、否定の言葉を発した。
それは、俺の苛々を増やした。


「全部、貴女の所為なんですよ…。少しは……認めたらどうですか……っ」


眉が寄り、拳に力が入った。


「……だめ…。私は……やってないから……」
「まだ言うんですかっ!……どこまで、貴女は……」


最低な人なんだ。
言いそうになったが、それだけは噤んだ。


「……見損ないましたよ」


代わりに、この言葉が出た。


「………」


未玖先輩は、悲しそうに反対方向を見た。
そして、一歩を歩き出した。


「………長太郎」
「…っ……」


一瞬、自分が呼ばれたことに驚いた。
そして、


「……授業には、出なきゃだめだよ…。長太郎は、優しい人なんだから……」


俺は、何も言うことができなかった。
どうして、未玖先輩は俺のことを優しいと言うのか。
貴女に嫌な事を言ってしまった俺の事を。

俺は、ただじっと、未玖先輩の後姿を見るしかなかった……。





「……っ」


俺は優しくなんかない。
ただ、怯えてたんだ……。
テニス部の仲が変になり、焦ってたんだ。
その気持ちが、未玖先輩にあんなことを……。
未玖先輩……。
どうして貴女はあの時……俺の事を優しいって言ったんですか?
こんな…情けない俺に。

お願いです、未玖先輩。
無事で居てください。

俺はまだ……貴女に言う事があるんです。