あの時からでも
遅くない筈だった。

やっぱり振り切れなかった。
最後まで、この事から逃げていたんだ―――





向日side



未玖が記憶を取り戻した。
……その事実を知って、俺は身体が飛び跳ねた。
嬉しいと思った。

……でも、逆に怖かった。
今未玖に会って、俺はどうなる?
……多分、何も言えない。
あれだけの事をしてしまって……。
未玖に拒否されるのが怖いんだ。

……そう、俺は……。
いつだって臆病で―――





侑士と放課後、未玖を見た。
……未玖が襲われてるところを。
未玖とは全然会ってなくて……。
何をやってるのかも知らなくて。
この時、久しぶりに未玖に会った。

まさか……
こんなことになってるなんて……。


「っいやあ!」


未玖が傷ついてる―――

そう思うと、言葉じゃ表せないような感情が芽生えてきた。
どうしてか分からない。
俺は、未玖を見捨てた奴なのに……。


「……っ岳人、行くで…」
「…で、でも……」


未玖の今の姿を見ているのは嫌だ。
俺は、逃げたいという気持ちでその場を去ったんだ……。
そして、


「……忍足、試合の相手をしろ」
「…ああ、ええで」


練習の合間。
俺が一人になった時。
こっそり………未玖の元へ向かった。


「っ未玖……」


何でか、足が勝手に未玖の方へ向かうんだ。
気持ちばかりが先走る。
行動ではいつだって……


「っ何してるんだ!!」


遅れてる―――


「っあいつ……幸村……?」


どうして幸村が?
立海に居るはずの幸村が?
どうして………未玖を助けてるんだ?


「君たち、今すぐここから立ち去らないと人呼ぶよ」
「はっ、呼べるもんなら呼んでみろよ!どうせこいつを助ける奴なんてこの学園にいねぇんだからよ!」


男の言葉に、自分の胸に何かが突き刺さるような感覚が走った。
未玖を助ける奴なんて……居ない。
そういう状況にしたのは誰だ?
………俺たちだ。


「大体てめえ部外者だろ?なのに首突っ込んでんじゃね…「早く立ち去って」


部外者……なんで幸村が未玖を助けているのかは知らない。
……そうだ、きっと。
未玖のことを何も知らないから……ただの、同情とかで助けてるんだ。
そう思うことで、俺は全てから逃げていた。
弱い自分から。
未玖から。
そして……


立ち去れって言ったんだよ!!
「っ!」


幸村が叫んだ。
俺は、すぐにその場所から去った。
もう俺は何もできない。
完全に……逃げ切ってしまった。
後戻りは出来ない。

結局……俺は未玖と関わるのを、あの日まで避けていたんだ―――