あれだけは忘れん。
……いや、忘れられん。

俺が犯した……罪の重さ。
俺は、どれだけあいつを傷つけたんや―――





忍足side



栞の身体にある傷を見た日から、未玖は俺たちの前に姿を現さんかった。
俺は、未玖とクラスも違う。
放課後になっても、全く未玖と会わなかった。

でも、一度だけ。
校舎の裏で未玖を見た―――





「……なぁ、侑士」
「…なんや、岳人」


コートのギャラリーが多すぎて、遅れてきた俺らは真っ直ぐコートに行けんかった。
……声を掛ければ、普通に通してくれるやろうけど、そういう気にはなれんかった。


「…最近さ、部活……暗くね?」
「……しゃあないやろ。あんなことがあったんや」


未玖は栞を虐めとった。
その話がテニス部……いや、もう全校に広がっていた。


「……なんで、未玖は栞を虐めたんだよ……」
「……どうせ、嫉妬とかやろ」


俺は、そういうことをする奴が一番嫌いやった。
やから、未玖をめちゃめちゃ恨んどった。


「きゃああっ!」


すると、一番聞きたない声……未玖の悲鳴が聞こえた。


「!……おい侑士、あれ……」


俯いてた俺に、岳人が目の前を指差した。


「……!?」


その光景だけは今でも忘れん。
数人の男に囲まれて、シャツを破られて……その状況に出くわした。


「っ……」


岳人は目を丸くしてその光景を見ていた。
俺も、しばらくは状況を飲み込めんかった。


「いやっ…!やめっ……!?」


そんな中、俺は未玖と目が合った。
未玖は、驚いた表情で俺たちを見つめていた。
俺は、思い切り目を逸らした。


「っ…!」


未玖は、一瞬にして辛そうな顔をした。
男たちの行為からじゃない。
俺が目を逸らしたからや。


「……っ岳人、行くで…」
「…で、でも……」
「いいんや……。俺らには助けることなんて出来ん……」


もう、未玖には冷たい態度をとってしまったから。
今更優しくなんて出来ん。


「…侑士……」
「……嫌いやわ。ほんまに」


俺をこんな気持ちにさせて。
何で今更……。
こんなに罪悪感を感じなあかんのや……。


「早よ、行くで…」
「…っ…分かったよ……」


岳人も、未玖から目を伏せて歩き出した。


「っやだ…あっ!」


未玖は俺たちに『助けて』と言わんかった。
ただ、俺たちをずっと見ていた。

俺たちは、未玖を見捨てたんや。





その頃は未玖を恨んでいた。
だから、未玖を助けんかった。
……やけど、
その後は、何故か胸が重かった。
未玖の姿が何度か頭を過ぎった。

俺は何てことをしてまったんや。
未玖は悪くない。
全部、俺が悪いのに。
未玖を信じることが出来なかった、俺が……。

未玖が記憶を取り戻した。
……俺らが行っていいんやろか。
未玖を裏切った俺等を……
未玖は今、どう思っとるんや――――?