1分1秒でも早く
お前に償いをしたい。

もう、遅いと分かっている。
それでも、俺は―――





思い出した記憶の中は……
酷く、残酷なものが多かった……。
今でも、恐怖で身体が震える。





跡部side



俺は、氷帝へと向かう電車の途中、ずっと未玖の事を考えていた。
……正確に言うと、未玖との過去の事だ。





「跡部、跡部!」
「……なんだよ、向日」
「それが大変なんですよ!」
「…鳳まで。…一体何なんだよ」


生徒会の仕事で、校内を歩いている時。
血相を変えて向日と鳳が俺の元に走ってきた。


「未玖が……未玖が栞の事虐めてたらしいんだよっ!」
「……はぁ?」


初めは全く信じられなかった。
あの未玖が?
冗談だろ?


「本当なんですよ!栞先輩の身体に、凄い数の傷があるんですよ!」
「………傷?」
「と、とにかくお前も来いよっ!」
「……っち」


俺は走った。
未玖を疑ってるんじゃねえ。
場の状況を掴みたかったんだ。
部室に着くと、


「何でこんな事するんやっ!」


忍足の怒鳴り声が聞こえた。


「っ忍足!何やってんだよ!」
「……跡部。…跡部も見てみ!この栞の身体にある傷を……」


部室に入るなり忍足は栞の袖をまくりあげ傷を見せた。


「……っ!」


そこには、数え切れない程の傷があった。
全てが変色している。


「っあ…こ、これは……」


栞が隠すように袖をおろす。


「これを、未玖がやったんだ!」
「っ違う!岳人、違うの…っ!」


横では未玖が目に涙を溜めて否定している。
俺は、内心迷っていた。
未玖を信じたい。
でも
栞の身体の傷は何だ?


「……っでも、未玖の力じゃ、栞の身体にそんな痣をつけるなんて…「男を使ったんや」……忍足…」


忍足は未玖を睨んで言った。


「未玖は男女ともに仲がええ。……それを利用して栞を虐めとったんや!」
「っ違う!私、そんな事してないっ!」
「…っとに…最低だぜ……」
「ほんとに…私は、やってない……っ!」


悲痛な表情で俺たちに訴える未玖。
この時、俺はどんな判断を下した?
誰を、どんな目で見た?


「跡部!俺、栞にこんな事をする奴とはもう部活やりたくねぇ!」


岳人が叫んだ。
栞は俯いている。
未玖はついに涙を零して俺たちを見る。

そんな状況で、俺は――――



「未玖………もう俺たちの前に現れるな」



酷い言葉を未玖に言ったんだ。
俺は、未玖じゃなくて栞を信じてしまったんだ。


「っ景吾……っ!」
「そうや。もうお前はテニス部のマネやあらへん」
「…出て行ってください」


全員が、未玖を追い出すような言葉を言った。
そして、


「っ―――」


未玖は何も言わず、部室から去った。
もう、俺たちに向ける言葉を諦めたのか。
最後の最後で、否定の言葉を言わなかった。

その日を境に、未玖は部室には来なくなった。
……いや、来なかったんじゃねえ。
来れなかったんだ。
その日から、朝…昼休み…放課後……。
絶えず、呼び出されていたんだ。



俺は、何で守ってやれなかったんだ。
未玖が呼び出されていたことを知っていたのに。
何で……助けてやれなかったんだ。

今は悔やんでも仕方が無い。
まずは未玖に会いに行こう。
それから、自分の犯した罪を償おう。

……過去から逃げてるだけだって、分かってる。


でも、今は本当に……未玖の事が心配なんだ―――