強がり。
それは、弱いからなの。

痛い≠ニ言えないから。
言う勇気がないから

強がってしまうの―――





どれくらい走っただろうか。
私は人目を気にせず走っている。


「はっ…はぁっ…」


私は記憶から逃げていた。
頭に響く大勢の人の声、記憶。
どれも、どんどん近づいてくる。
拒否しているのに、止まってくれない。


「っやだ……っやめて……!」


どこに行くかなんて考えてない。
ただ、足が勝手にどこかに向かってる。
ねえ。
そこは私が記憶の鎖から逃れられる場所なの―――?





思えば、私は強がってばかりだった。


「未玖さん、その怪我どうしたんスか?」
「え…?あ、見えた…?」
「ちらっと」


私の太ももにある傷。
……皆に蹴られたりされてできた傷。


「赤也、未玖のんなところ見てたのかよぃ」
「ち、違うッスよ!た、ただ…目に付いたんで……」
「いいよ、ブン太も赤也も。それに、大した事ない傷だから」
「…そのわりには、痛々しかったッス」
「氷帝の奴等にやられとるんじゃろ?」
「あはは、平気だって!あれだよ、気の迷いだよ」
「む…気の迷いだとしてもマネージャーにそのようなことをするとはたるんどるっ!」
「……たるんどるとかの問題なのか?」


立海だと自然に笑顔になれて……とても楽しかった。
でも…


「皆は優しいよ?こんなの、もうすぐ治るし…。そう言う皆は一生懸命練習しなきゃ!」
「……それもそうですが…」
「もう、心配性だなぁ。そんなんだったら氷帝に勝てないよ〜?」
「…そこまで言われては俺たちもたるんどるな。よしっ!今日は練習メニュー2倍だ!」
「ええっ!?そりゃないッスよ〜」
「未玖の所為だぜ〜」
「あはは、頑張って〜!」





辛いのに、辛いって言えない。
痛いのに、痛いって言えない。
私は強がってばかり。
本当は助けて欲しいのに……あの悲劇から、連れ出して欲しいのに……。
皆の事を考えると……。
立海の練習の邪魔をしちゃいけない。
私が喋って、氷帝を嫌な所だと思われたくない。
私は氷帝が大好きだったから。

……今でも……?
好きよ、氷帝は…。
じゃあ、何で飛び降りたの?
心の中で自問自答。
それは、不安だから。


「……っこ、こは…」


寂しかった帰り道。
見覚えのある景色。


「っ……」


氷帝へと向かう道―――
どうして?
なんで私は、そこへ向かってるの……?
まだ、未練があるの……?

……ああ、
けじめをつけるためなのね―――