それは
新たな地へと飛び立つ

小さな小さな
鳥のように……―――





「――――!」


もう少女に、周りの声なんて聞こえない。
まるで、意識を失ってしまっているように。


「………」


もう少女の、身体の感覚など無い。
それは、心身の痛み故?
少女は今、屋上のフェンスを越えた所に居る。


「これで……楽になれる」
「――――っ!!」


フェンス越しから聞こえる声には、耳を貸さない。
少女の悲痛の叫びに、耳を貸してくれなかったように。


「やっと……自由になれる」


ただ一人、少女は十数メートル下の地面に向かって呟いた。

そして、一人の少女が力無しに地へと飛び立った――





地面に落ちる時は、とてもゆっくりだった。
そして一瞬、あの人と目が合ったような気がする。
とても、悲しそうな顔をしていた。

――あの時とは正反対……。

私が、地獄に堕ちたのは、一瞬だった。
そしてあの人は、目も合わせなかった。
とても、苦しそうな顔をしていた。
静かに目を瞑ると、まるで、上へ昇っていくようだ。
これで、やっと地獄の日々から解放されるんだ。
そう思うと、目頭が熱くなり、もう出まいと思っていた涙が溢れてきた。
もう、悲しみの涙なんか枯れたと思っていたのに。

――ああ、そうか、これは嬉し涙なんだ……。

私が流した事の無い、嬉し涙……。
私の今の姿を見たあの人達は、どんな表情をしている?
喜び、安心、嬉しい?
悲しい、切ない、寂しい?
……まぁ、後者は有り得ない。

あ、今、地に到着した。
刺激があるのに、痛みを感じない。

嗚呼―――
これで、終わったんだ。

私は安心して、意識を失った。