今思い出しても、憎悪でいっぱいになる。
自分の無力さに泣きたくなってくる。

なんで俺はこんな―――





幸村side



跡部と塚原とが話している間、俺は一つの出来事を思い出していた。
俺が初めて見た、未玖への虐め―――





その事件が起こる前の日の夜。
俺の携帯の着信が鳴った。


「…もしもし」
『……せい、いち…?』
「…未玖。どうしたんだい?」
『っ……精市……』
「うん……」
『……っう、うぅ…精市…っ』


未玖は俺の名前を何度も呼び、涙を零しているようだった。
電話をして、いきなりこの様子はおかしい。
俺の脳裏には、少し前に聞いた未玖への虐めの事。


「……未玖、落ち着いて。…何かあったの?」
『うっ……な、何でもない…こ、声が聞きたかっただけなの……』


まだしゃくりがあるが、落ち着いて話せるようになっていた。


『…精市の声を聞くと……落ち着くの。……迷惑…?』
「……ううん。俺の声で良かったら何時でも聞かせてあげる」
『うん…。ありがと、精市……』


その後、おやすみを言って電話を切った。
でも、俺は凄く気になっていた。
いつもお見舞いに来てくれる度に増えている傷。
失くなっている笑顔。

氷帝で何をされているのか―――

俺は次の日、氷帝へ様子を見に行く事にした。





「……未玖…部室に居るかな」


今は部活時間。
俺は大勢のテニス部ファンの子に隠れながら部室に近づいた。


「……いな…い?」


部室の窓を覗いてみる。
誰も居ない。


「……おかしいな…」


すると、校舎の裏から声が聞こえてきたんだ。
叫び声が。


「っ…未玖…」


それは紛れもなく未玖の声。
俺は走ってその場所に近づいた。


「……?」


すると、別方向に二人の姿を見た。


「……忍足と、向日…?」


間違いない、その二人。
顔は俯いていて、逃げるように早歩きだった。


「いやあっ!やめてえっ!!」
「!!」


そして、俺は一瞬にして体が怒りで熱くなったのを今でも覚えている。
酷い光景だった。
目の前で……


「やだあっ!だっ…誰かっ…!!」


未玖が襲われていたんだから。

一人の男が未玖に跨っていて、その周りを数人の男が囲んでいた。
シャツなんて引き千切られていた。
未玖の抵抗は空しく、男には敵わない。


「っ何してるんだっ!!」


俺は自分でもびっくりするくらい大声を出して、未玖に駆け寄った。
未玖に、俺の着ていた上着を被せる。


「っ誰だよてめえ!」


「君たち、今すぐここから立ち去らないと人呼ぶよ」
「はっ、呼べるもんなら呼んでみろよ!どうせこいつを助ける奴なんてこの学園にいねぇんだからよ!」


その男の言葉で、未玖が学園で本当に孤立していることが分かる。
俺は未玖を抱き締める。


「大体てめえ部外者だろ?なのに首突っ込んでんじゃね…「早く立ち去って」


声のトーンが低くなった。
俺は怒りに震え、未玖を支える腕も震えた。


「っ何だよ…」
「聞こえなかった?……


立ち去れって言ったんだよっ!!
「「「っ…」」」


迫力があったのか、男たちは走り去った。
…今は病気で、大声を出すのは良くない。
でも、しょうがないんだ。
こんな状況の未玖を見たら。


「……でも、」


さっき見た、あの二人。
忍足と向日。


「……ここを、通ったよね……?」


逃げるように、早歩きで。
……てことは、


「……未玖を、見捨てた……」


襲われてる、未玖を。


「……っ…許さない」


俺は、沸々と湧き上がる怒りを我慢して抑えた。
今俺が行っても何の解決にもならない。
なんて、俺は無力なんだろう。
大好きな女の子も守れないなんて―――