君の為なら
すぐにでも駆けつける。

君が無事なら
すぐにでも優しく声を―――





「…何?氷帝にだと?」


幸村から電話を受けた真田が言った。


『うん。多分、そこに未玖が居る』
「……分かった」


真剣に言う幸村に、真田は理解したようにすぐ返事をした。


「俺が何とかしよう」
『……頼むよ。未玖を…、助けてね…?』
「無論だ。身体を張ってでも未玖を助ける」


そして、電話を切った。


「精市は、何だって?」
「…今から氷帝へ向かう」
「え?」
「何でだっ?」
「未玖が、病院から居なくなったらしい」
「「「っ!?」」」


全員が信じられないような目で真田を見た。


「……それは、塚原が追い出したのか?」
「いや。…未玖が、飛び出した」
「っ何で…」
「……未玖は、記憶を取り戻したのだろう」
「っ記憶を…!?」


真田の言葉に、宍戸が目を見開く。


「ほ、本当ですか!?」
「…多分な。だから、これから氷帝に行く」
「…記憶を取り戻した未玖が、氷帝に行くんか?」


仁王の疑問。
それは、皆の疑問だった。


「……分からん。だが、幸村があそこまで真剣に言うんだ」


真田の言葉に納得したのか、立海は黙る。


「……っとりあえず、氷帝に行けばいいんだな…?」
「ああ。頼む、宍戸」


そして、集団は方向を変え、氷帝へと向かった。





跡部side



「どうして…っお前はまた未玖の前に現れた……」


幸村が電話をした後、俺たちは塚原に理由を聞いていた。


「……未玖の所為で、次に歯を向けられるのは私だもの。…私は氷帝に居られなくなった」
「そんなの自業自得だろっ!」


向日が叫ぶ。
俺だって、すぐにでも叫び、塚原を殴りたい。
今まで、未玖が傷ついた分を。


「……それに、中途半端じゃない?死にたいから飛び降りたのに……死なずに記憶だけなんて」
「っだからって…!」
「不安定な未玖にお前がっ…」
「貴方たちだって、記憶を取り戻して欲しかったんでしょ?」
「っ俺たちは…」


こんな事で思い出して欲しくなかった。
無理矢理過去の扉をこじ開けて、嫌な記憶を……。


「私は、貴方たちの願いを叶えてあげたのよ?」


妖艶に笑う。
こんな女に。


「っ…最低だ、お前…」


向日は、言葉が出なくなったのか呟くように言った。


「最低で結構。自分でもそう思ってるから」
「………」


もうこいつに何を言っても効果ねえ。
完全に開き直ってる。


「……それに、最低なら貴方たちだって負けてないわ」
「「「っ……」」」


その言葉に、過去の俺たちの行為が蘇る。


「っあれは……」
「私に騙されたから?…そこが最低なのよ。元々の未玖への信頼が低かったんじゃない」


思い浮かぶのは、
未玖を傷つけてる声。
未玖の否定する声。
最低な声だ。


「貴方たちも、未玖の元に行ったら?亮と長太郎はここに居ないみたいだけど……。あの二人だけじゃだめよ。全員が行かないと」


その言葉は何を案じている?
俺たちを正しい方向へと誘ってるのか?


「……跡部っ、行くで」
「あ、ああ…」


でも今は、未玖の元へ―――


「幸村っ」
「先に行ってて。……俺は、塚原さんと少し話すよ」


幸村は、そう言って真っ直ぐ、塚原を見ていた。


「……っ」
「跡部っ!」
「…分かった」


幸村と塚原を病室に残して、俺たちは1秒でも早く未玖の居る氷帝へと走り出した。