だって、目に付いたんだもの。
忌々しかったんだもの。

自分と正反対な貴女が―――





栞side



「うっ……あぁっ…」


未玖が私の身体を支えながら泣いている。
それは、どんな涙?
事実を知った悲しみ?
現場を見てしまった悔やみ?
氷帝を突き放した寂しさ?

どれにせよ、結局は私の罠にはまった。


「……未玖ちゃん…泣かないで……」


そう言う私も涙を零している。


「っごめんね……」


どうしてあんたが謝ってるの?


「まも、れなくて……」


だって、私はあんたから恨まれる存在じゃない。
もし記憶があるのなら、貴女はすぐに私に突っかかる。
そして、怒り叫ぶでしょう。
私は悦に笑ってあげる。
そうしたら、すぐにでも首を絞めたい衝動に駆られるでしょ?


「……未玖ちゃんは、気にしなくていいよ……」


私の勝手な私情に巻き込まれただけ。
でも
巻き込まれる貴女も悪いのよ。

「お〜い!俺のドリンクはー?」
「うーんと、これ!」
「さんきゅ!」


いつも笑顔の耐えない貴女。

「おい、岳人が一番乗りかよ!」
「へへーん!いーだろっ」
「じゃあ、俺が二番目で」
「長太郎っ!?」
「下剋上ですね」
「若までっ!」


賑やかな周り。
いつも真ん中に居た貴女。

「おい宍戸、見苦しいぞ」
「な、なんだよ、跡部…」
「アホやなぁ。ドリンクの一番は譲っても、未玖の一番は譲らへんで?」
「違うC!俺だよ〜っ!」
「もう、侑士もジローも……」


貴女はいつも皆に囲まれて、楽しそうに笑っていた。
しかも、相手はあのテニス部。
余計に目立って見えた。
だから、目を付けられる。
今まで目を付けられなかったのは、貴女が同姓にも好かれるからだった。

「栞ちゃんっ!」
「……何?」
「あのね、ここの問題が分からなくて……」


私の前の席で、よく聞いてきた。
その笑顔を見ると、ぶち壊したい衝動に駆られる。
むかつく。
忌々しい。
そう思うのは、自分と違うから。


「っほんとにごめん……」


記憶を失った貴女は、もう私の手の中よ。


「………もう、謝らないで」
「……っでも」
「……………だから」
「……え?」



「貴女はまだ真実を知っていないんだから」



「え―――?」


妖しく笑った私に、未玖は硬直したように私を見ていた。