言葉で、人は救われる。
言葉で、人を陥れれる。
言葉で、人を傷つけられる。

全てはたった一言の言葉から―――





朝の日差しが私の目に入った。
昨日は、全くと言っていい程眠れなかった。
私が氷帝テニス部のマネージャーだったという事実。
栞ちゃんが、テニス部の皆に虐められているという真実。
もう、私の頭の中では決定してしまっていた。

テニス部の皆は、栞ちゃんを虐めている。

私はどっちだった?
栞ちゃんが虐められていたのを知っていたの?
それとも、知らなかった?
見て見ぬ振りとかしてたの?
……選択肢が多すぎる……。

私は、考えるのを止めた。
少し、頭痛がしてきたから。


『悪い。今日も練習試合があってな。少し見舞い遅れる』


跡部くんから電話が来た。
……内心、ほっとしている。
今は、あまり会いたくない。


「……そう、なんだ。……頑張ってね」
『ああ。すぐに終わらせて見舞いに行くから』
「……ん、そんなに焦らなくていいのに……」
『いーんだよ。未玖んとこに見舞いに行くのが俺たちの楽しみでもあるからよ』


本当にそうなのかな。


『今日は久しぶりに全員で見舞いに行くぜ。皆未玖に会いてぇんだとよ』


来ないで。
一瞬、言いそうになってしまった。


「……わ、分かった」
『ああ。じゃあな』


電話が切れた。
……皆が、来る。
氷帝の皆が、私に会いに来る。

何だろう、この気持ち。
恐怖?
錘がずしりと心臓の上にのっかるようなこの感じ。
何だか、嫌な予感がする。

コンコン。


「……だ、誰…?」
「俺だよ、未玖」


その声は、精市だった。
何だか、とても安心感に包まれる。


「どうぞ、入って……」


扉が開き、精市の微笑が目に入った。
ふわりと、不安を感じさせない表情。
安心する――


「未玖、どう?最近の調子は」
「……全然、平気だよ」


何だか、精市の顔を直視できない。
あんな表情だと、今の気持ちを叫びたい衝動になる。


「……未玖?さっきから下を向いてどうしたの?」


精市が顔を覗き込んできた。


「っ……な、なんでもないの……」


咄嗟に、目を逸らしてしまった。
全くもう、うまく隠し事ができないな……。


「……何か、悩み事でもあるの?」


精市は見事に心のうちを当てた。
私は、何も言えない。


「……俺でよかったら聞くよ?未玖の中に溜まってるもの、全部聞くよ?」


本当に、心から心配事を全て取り除くかのような優しい声。
昔と何も変わらない。私がずっと頼りにしていた……。


「……っ、せ…いいち…っ」


私は、言葉の代わりに涙を流した。
私の心にある不安の塊。
言えないけど、癒して欲しかった。


「未玖……」


精市は、何も言わず、私の背中をさすってくれた。
その優しい行動が、今の私を少し惨めに思わせた。
いつも、精市は私のことを守ってくれてる。
昔から、そうだった。
……私も、守れるかな?
大切な友達を。

栞ちゃんを―――


「……全部、吐き出した?」


泣き止んだ私に、優しく聞く精市。


「……うん。ありがと、精市……」
「……聞かない方がいいのかもしれないけど……。何かあった?」


精市が、心配そうに聞いた。


「……ううん。何でもないの。……少し、不安になっただけ」
「……そう?」
「うん……」


話したら、少しは楽になるだろうか。
でも、そしたら栞ちゃんを守れない。


「……何度も言ったと思うけど……俺たちは、未玖の味方だからね?何かあったら、すぐに俺たちに言ってね?」
「うん。ありがとう……」


その言葉があるだけで、私は十分に守られてる気がする―――