あえて、口には出さない。
ずっと、心の中に置いておく。

……勿論、
心の中は不安でいっぱいだよ―――?





「未玖、元気に………」
「………………」
「……未玖?」
「……え、あ……皆……」


ドアを見ると、立海の皆がテニスバッグを担いだまま立っていた。


「……あれ?精市は?」
「今日は診察があって来れないんだ」
「そうなんだ……」
「……今日は、元気がありませんね」
「……ん、ちょっとね……」
「何か嫌なことでもあったんか?」
「ううん。そうじゃないの」


嫌じゃない。
何か、モヤモヤがあるの。
私はちらりと皆のテニスバッグを見た。


「……ねえ、皆」
「ん?何だ?」
「……私が氷帝のテニス部マネージャーだって事、知ってた……?」


言った瞬間、皆の顔色が変わった。
……知ってたんだ。


「……未玖、何でそれを……?」
「芥川くんが教えてくれたの」
「……っ芥川の奴……」


小声で、ブン太が言ったのが微かに聞こえた。
……私が知っていると、だめなの?


「……確かに、未玖は氷帝テニス部のマネージャーだ」
「っ蓮二……」
「もう知ってしまったんだ。何か言うと余計におかしく思われるぞ」


弦一郎と蓮二が何か話していた。
その内容は聞こえなかった。


「……未玖は、昔から俺たちのサポートをしてくれていたからな」
「……そう、だね」


ジャッカルの言葉に、じわじわと子供の頃のことを思い出した。
立海の皆と、よく遊んだ。


「……あのまま、立海のマネージャーになれば良かったのにのう」


切なそうに、雅治が呟いた。


「………」


テニス部マネージャー……か。
私、何をやっていたんだろう。


「……ドジ、しなかったかなぁ……」
「……それなら心配なかろう。未玖は昔から一生懸命だからな」
「……そう?」
「そうだぜ。……あの頃はめっちゃ楽しかったぜぃ……」


ブン太が思い出すように言った。


「……そうだね」


私の頭の中にも、楽しい思い出でいっぱい。
………でも、今は?
何も思い出せない……。
こんな自分に、少し腹が立った。


「……む。そろそろ幸村の診察が終わる頃だな」
「あ、そうか……。精市、大丈夫かなぁ?」
「心配ねぇだろ。診察前までピンピンしてたからな」
「まぁ、あの幸村じゃしな」


ブン太と雅治の言葉に、思わず笑みが零れる。


「ふふ、そうだよね。皆、今日もありがとう」
「いえ、私たちも、未玖さんに会うのが楽しみですから」
「そうだぜぃ。また、明日な」
「未玖さん、ばいばいッス〜!」
「うん、ばいばい」


立海の皆とは笑顔で別れた。





幸村side



今、丁度診察が終わったところ。
勿論、何も異常はなかった。
……こんな大事な時に、俺が身体を壊したらいけないからな。


「………ん?あれは……」


診察室から出ると、一瞬だが、氷帝の制服を見たような気がした。
女の子のものだったから、テニス部の誰かではなさそうだ。


「………まぁ、居てもおかしくはないよな」


そう思って、俺は自分の病室に戻った。



その時は軽く見過ごしてしまった。
その事が
後に大きな後悔となるなんて。

全然思ってなかった―――