ずっと聞きたかった。

やっと、貴方たちとの関係が少し分かった―――





「よっ、悪ぃな、昨日は行けなくて」


翌日。宍戸くんがドアを開けるなり、笑顔で言った。


「身体の調子はどう〜?」


もう一人、芥川くんが居た。


「ん………平気、だよ」


昨日の栞ちゃんの傷を見てから、何度も氷帝の人たちを疑ってしまう。
目の前で優しい表情を見せられても……素直に受け入れられない。


「そう?なら良かったC〜」


確かに、氷帝の人たちは優しい。
それは、私だけに対して?
私が、怪我をしているから?
他の人には、暴力を振るったりするの?
どうしても、疑ってしまう。


「あ、そうだ。今日な、面白いことがあったんだよ」
「未玖にも話してあげるC〜!」


こうして、二人の話を聞いた。
学校生活のことだった。


「今日な、樺地が休んだんだよ。……で、跡部がいつもの癖で『なあ、樺地』って言っちまってよ」
「勿論、返事は返ってこなくてさ〜。あんな跡部、初めて見たC〜」
「全く、激ダサだぜ」
「……そ、そうなんだ」


何だろう、この感じ。
初めて氷帝の皆と会ったときにも感じた、不安。
この笑顔は、本当に心からの?


「……あ、そういえば樺地が休んじまって、ドリンクとかに困ったよな」
「うんうん。未玖が入院してから、ずっと樺地がドリンクとか作ってくれたもんね〜」


……え、私?


「……私が……?」


驚いて聞き返すと、宍戸くんははっとした顔をしたけど、芥川くんは素直に教えてくれた。


「あれ?聞いてなかったっけ?未玖は、氷帝テニス部のマネージャーなんだC〜」
「っ、ジロー……!」


……知らなかった。
てっきり、精市と幼馴染だからその関係でテニス部員と関りがあったのかと……。


「………そ、うなんだ……」


何で、教えてくれなかったんだろう。
私と、氷帝の皆との関係の筈なのに。
その事でさえ、何も教えてもらってない。


「……ジロー……っ」
「……へ?……あ、ご、ごめん……」


宍戸くんが少し怖い顔で、芥川くんを止める。
……どうして、止めるの?


「……………何で……?」
「「え…?」」
「何で……教えてくれなかったの?」
「「………っ」」


ずっと、知りたかった。
私という人物が、何なのかを。
ずっと、教えて欲しかった。


「……わ、たし……のこと、何も教えてくれ、なくて……っ」


気がつくと、涙が溢れてきた。
とにかく、悲しかった。
隠し事をされているみたいで。


「……っ、わ、悪い……」
「ほんとに……ごめん……」


そんな言葉を聞きたいんじゃない……。
理由を聞きたいの……。
でも、


「……ううん。私こそ、ごめんなさい……」


こんなことばかり言ってると、二人を困らせちゃう。
もしかしたら、嫌われちゃうかもしれない。
そんなの、嫌だ。


「……未玖は謝んなくていい……」
「俺たちがいけないんだC……」


私は、首を横に振った。


「……教えてくれて、ありがとう」
「うん。……氷帝のマネージャーは、未玖だけだC〜……」


私を安心させるかのように、微笑んで言ってくれた。


「……何か、長く居すぎたか?」


時計を見ると、もう5時半を回っていた。


「あっ、ごめん……。気付かなかった……」
「ううん。俺、未玖と話せて嬉しいから」
「……じゃあな」
「うん……。ばいばい……」


そうして、ゆっくりと二人は出て行った。


「………」


私はそれから、ぼーっとしていた。
私が、氷帝テニス部のマネージャー……。

だから、か。
だから、テニス部の皆が来てくれていたんだ。
……そう、か……。


貴方たちとの関係。
それが、一番知りたいことだった―――