何が本当なの?
誰を信じればいいの?
誰を信じていいの?―――





「ごめんね、今日、お見舞いに行けなくなった」

さっき、精市からの電話。
部活についての話が長引いてしまったらしく、私が言っても皆の邪魔になるだろうから素直に引き下がった。
はぁ……今日は、来れないのか……。


「……つまんないなぁ」


いつも、氷帝と立海の人たちが来てくれてる。
楽しい話をしてくれる。それが楽しくて幸せだった。
……うん、そうだよね。
我儘言っちゃいけないんだ……。
忍足くんたちは、記憶のない私に、凄く優しくしてくれる。
毎日毎日、来てくれてる。

……それなのに、今日は傷つけてしまった。
……もう、あんな事言わないようにしないと……。

コンコン。

そう考え事をしていると、扉をノックする音が聞こえた。
……誰だろう。
立海の皆は、今日は来れないって……。
忍足くんたちは帰ったし……。


「………はい」


もしかしたら、お見舞いに来た人が病室を忘れてしまったのかもしれない。
私はとりあえず返事をした。

すると、ドアが開き―――


「………未玖ちゃんっ」


私の顔を見るなり名前を呼び、同時に飛び込んできた身体。
いきなり、抱きついてきた。
……女の子だ。


「……え……?」
「あ……き、急にごめん……」


私と同い年くらいの女の子は、私から離れた。


「……あの、誰……ですか?」
「……未玖、ちゃん……。本当に、忘れちゃったの……?」


目の前の女の子は、悲しそうに私を見た。
……忘れちゃった?
もしかして、この子も……中学の……?


「……私、氷帝学園で、未玖ちゃんと同じクラスなんだよっ」


さっきと打って変わって少し明るく言った。
私と……同じクラス……。
そして、ここに来てくれたっていうことは。


「……もしかして……私の、友達……?」
「うん!……本当に、覚えてない?……私たち、凄く仲が良かったのに……」
「ご、ごめん……」


悲しそうな表情で私の顔を覗き込んでくる女の子。
思わず謝ってしまうと、女の子は離れて、にこっと笑った。


「……なーんて!ごめんね、変なこと言って。記憶喪失になったのは未玖ちゃんの所為じゃないんだもん!気にしないで」


最後にもう一度、にこって笑ったこの子。
……笑顔が可愛い。


「それにしても……身体は元気そうで良かった……」
「あ、うん……頭を強く打ったみたいだから……」
「ふぅん……」


一瞬横に眼を逸らし、また私を見た。


「ねぇ、また、仲良くしてね?」
「う、うん!私こそ……」
「ふふ、ありがと!」


それから、私たちは話をした。
いつもとは違う相手でしかも女の子の友達、私は嬉しかった。
尽きないほど、相手は話をしてくれた。
そして、一気に仲良くなった。


「そうだ!今度テニス部の人とも一緒においでよ!」


同じ学年だし、女の子一人で来るよりは絶対良いと思った。
でも、急に表情が暗くなって、


「……それはだめ……」
「……え?どうして……」
「………」


今にも泣き出しそうな顔をして、じっと床を見ていた。
そして言いにくそうに、小さく声を出す。


「……私……テニス部の人たちに嫌われてるから……」


想像もしていなかった内容に、私は目を見開いて言葉を失った。


「……え……」
「……今……学校で……あの人たちを中心に、虐められてるの……」


目に涙を溜めて、私にそう訴えてきた。
それは、本当に辛そうな表情で。


「で、でも……あの人たち、そんなことをするような人じゃ……」
「……それはしょうがないよ……。あの人たち、未玖ちゃんの事は大事にしてるもん……」
「じ、じゃああなたのことは……」
「……っ、私は……」


とうとう泣き出してしまった。
私にすがりつき涙を流す彼女は、とても小さく見えた。


「……でも……っ、未玖ちゃんがっ、事故に遭ったって聞いて……居ても立ってもいられなくて……っ」


強く、私の腕を掴んだ。
その肩は震えていて。


「私がここに来たって知られたら、もう未玖ちゃんに会えなくなっちゃう……」


とても嘘を言っているようには見えなかった。


「……っ、わ、分かった……」
「……本当?」
「うん……。皆には言わないよ……」
「ありがとう……未玖ちゃん……」


本当は信じられない。
本当に、テニス部の人たちが虐めをしているのか。
でも、この子の様子を見たら……。


「未玖ちゃん……」
「ん……何?」
「また、お見舞いに来ていい……?」
「……うん、勿論だよ」
「ありがとう……」


そう言うと、さっきまで泣いてた顔はもう、微笑んでいた。


「……じゃあ、私、もう帰るね……」
「うん。……またね――――――栞ちゃん」


扉が静かに閉まった。
私はまた、一人になった。