気付かんといて……。

それが、全部未玖の為なんや―――





忍足side



やばい。
未玖が……気付き始めとる。
いや………確信し始めとる。


「ねぇ、何で……皆以外の人は来てくれないの?」


今も、不安に満ちた顔になっとる。
言葉ではそれだけしか言ってへんけど。
きっと心の中では……いくつもの疑問が交錯してる。


「そ、それは……」


ジローも、言葉が詰まって目を泳がせるばっかりや。


「どうして……?」


俺も、何も答えられへん。
下手なことを言えば、過去に触ることを言うてまいそうや。
やからって、答えんかったら未玖の気持ちが……。


「………未玖、は……嫌なんか……?」
「え……?」


すまんな。


「こんな……男ばっかより、やっぱ女の友達に来て欲しいんか……?」


本当に、すまん……。


「ち、違うよ……。わ、私は……」
「俺ら、必死やねん……。未玖に元気になってもらうために……」


汚い手使うてもうて……。
俺が一番分かってんのは、未玖がめっちゃ心の優しい子やっちゅうことやねん……。
だから、こう言えば……未玖は俺らのことを想ってその疑問を全て呑み込む。
ほんま、すまん……。


「……ごめん、なさい……。私、そんなつもりじゃなくて……」
「ああ。分かっとる……。悪いんは、俺らやねん……」
「……え?」
「……何でもあらへん」


いつまでも、汚い手しか使えん俺を、許してくれ。
でも……。今は、未玖の為なんや……。


「……もう、こんなこと言わないから……」
「……ああ。何か、すまへんな……」


今だけ……。
今だけ、俺の気持ち、分かってくれ。
それからは未玖はその疑問を押し込め、俺らの話に相槌を打つようになってくれた。
本当は納得してないかもしれんけど……未玖に変なことを言ってしまうより、マシや。


「今日は本当にごめんね」
「ええんやて。……未玖かて、不安なんやろ?」
「うん……でももう、大丈夫。……氷帝の、テニス部の皆がいるから……」
「……ああ。いつでも、頼ってくれ」


こうして、俺らは病室から出た。


「……ねえ、忍足」
「何や?」
「本当に……言わなくていいの……?」
「……いきなり何を言うてんねん」


言う?
俺らと未玖の過去をか?


「言ったらあかん。……未玖の、為や」
「……でも、」
「ジロー、今は未玖のことを考えや」
「………分かった」


本当は、言った方がいいのかもしれない。
今の未玖が、あのことを知っていたら……。

あんなことには―――