俺たちは
氷帝の後からしか、動けない。

今でも弱い。
でも、許して。

未玖の、氷帝との記憶を、守る為に―――





幸村side



今日のお見舞いは、跡部と忍足だったかな。
……大丈夫かな。
未玖は、今凄く情緒不安定。
跡部が居るから大丈夫だとは思うけど……。
また、昨日みたいに未玖を迷わせるような事があったら……。
そんな不安を抱きながら、未玖の部屋の前まで来た。

コンコン。


「……はい」


中から、元気の無い未玖の声。


「……皆……」


今にも泣きそうな、未玖の顔が飛び込んだ。


「未玖!?また何かあったのかよぃ?」
「何か、気に掛かるような事言ってたんスか!?」


ブン太と赤也の言葉に、首を横に振る。


「違うの……。何か、おかしいの……。私」


言い始めたのは、自分の事だった。


「……昨日、記憶を取り戻したいって、言ったでしょ?」


コクン。
皆、ゆっくり頷いた。


「思い出せない……。氷帝の人たちの言葉が、私の過去に繋がってるのにっ、……信じられないっ」


俺たちにとって、衝撃的な言葉だった。
昨日、未玖は、思い出したい、と言った。
氷帝との、大事な記憶、と言った。


「思い出したい。……でも、怖い。氷帝の人の……私に対する態度が……っ、変……!」


未玖は、気づいていた。
記憶が忘れていても。
氷帝の態度に。違和感に。


「事故なのに……っ、ただの、事故なのに……っ、皆、みんな……っ!」


これ以上は無理だ。
これ以上、未玖の言葉を聞いたら、後悔してしまう。

氷帝と会わせた事に。


「未玖、それ以上、言わないで……」
「でもっ、不安で……っ!」


身体は覚えている。
あの卑劣さを。
感覚が覚えている。
あの恐怖を。
記憶以外が覚えている。
あの惨劇の全てを―――


「……っ、幸村……」


これ以上は耐えられない、とでも言うように俺を見るブン太。
俺だって、見るのは辛いよ。
未玖の、こんなに怯えている姿。


「未玖……落ち着いて。俺たちは、信用できない?」


問うと、未玖の言葉が止まった。


「……違うっ。立海の皆は……信じてる……!」
「だったら、安心して。俺たちはいつでも未玖の味方。氷帝も、未玖の味方」
「……っ」
「俺たちが言ってるんだ。信じて?」
「……っ、うん……。信じる……。私も……氷帝の皆が、優しい事……分かる」


ごめんね、未玖。
すぐに、カタをつけさせる。


「……未玖、もう、大丈夫?」
「……うん。……あ、皆、もう戻らなきゃ……」
「一人で、大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫……」
「……じゃあ、また明日な」
「うん。また明日……」


そうして俺たちは未玖の病室から出た。
出てすぐ、跡部に連絡を入れた。