何で?
何で?

不安ばかりが積もる―――





宍戸くんと鳳くんがお見舞いに来てくれた次の日。
また二人、お見舞いに来てくれた人がいた。


「あ、跡部くんと忍足くん……」
「……見舞いだ」
「俺もや」


二人とも、手に花束を持って、来てくれた。


「綺麗……ありがとうっ」
「このくらい、どってことねぇ」
「せや。見舞いやもんな」


この二人は、雰囲気が似ている。
大人っぽくて……なんだか見ていると落ち着く。


「……身体の調子はどうや?」
「順調に回復してるよ」
「なら、良かった……」


二人とも、心底安心したような顔をした。
本当に、心配してくれてる。
嬉しい。
なのに、私は、何も覚えていない。


「……っ」
「どうした?未玖」
「……ううん。何でもない…」


それが、とっても悔しくて。
もし、記憶があるなら。
氷帝の皆と、仲が良かったと思ってる記憶があったなら。
事故に遭った事なんて、笑いあって、すぐに忘れられる事が出来たのかな……。


「未玖?」
「……え?あ、ごめん……」


少し、ほーっとしてたみたい……。
せっかくお見舞いに来てくれてるのに、考え事をしたら悪いよね。


「……何で、謝るん?」
「え?」
「未玖は、何にも悪ないやろ……?」
「忍足……」


私は、悪くない……――?


「……すまん。何でもあらへん……」


ほら、この顔。
また、切なそうな顔をさせてしまった。
私が、記憶を失っているから。
私が、記憶を失ってしまったから――


「……っ」
「……未玖、大丈夫だ。お前が悪いんじゃない」


だったら何が悪いっていうの?
そもそも、何かが悪いというの?


「……すまんな。俺が……」


忍足くんが?
違う。忍足くんは悪くない。


「……やめて」
「……未玖っ」
「誰も、悪くないから……」


何で、私は事故に遭ってしまったんだろう。
何で、私は記憶を失ってしまったのだろう。


「「………」」
「私が、事故に遭っちゃっただけだから……」
「「……っ」」



真実を知っている者―――



「……違うっ」
「違わない……っ。ごめんね、私が……」


私が、貴方達にそんな顔をさせている。


「………」


ふわり。
突然身体が何かに包まれた。


「違う、言うてるやろ……」


忍足くんだった。


「自分を責めるんは、やめや……」


少しずつ、抱きしめる腕が強くなる。


「な、頼むから……」


震えている?
何か、追い詰められているような言葉。
私に言っているの?


「……忍足」
「……すまんな、未玖。いきなり……」


忍足くんは、ゆっくり離れた。


「……ううん」


首を振って大丈夫だよと誤魔化すも、私の脳裏からさっきの行動が離れない。
少し、落ち着かない。
何で?
二人の言葉が、信じられない。
何で?


「……もう、こんな時間やな」


時計を見ると、もう5時を回っていた。


「……そろそろ、立海が来るだろ」
「……俺ら、帰るな」
「……うん」


頭が、ぐるぐる回る……。
何で―――?