望んでいた、過去のピース。

一つ、揃った。

あと、一つ。
まだ、足りないものが―――





跡部side



未玖の病室を出てから、俺はずっと幸村の病室に居た。
特に何も話さず、時間が経った。


「……そろそろ、時間かな」


時計を見て、真剣な顔をする幸村。


「……時間?」


俺には幸村の言葉の意味が分からなかった。
コンコン。
丁度、ノックの音が聞こえた。


「……俺だ、真田だ」
「うん、どうぞ」


ドアが開かれると、立海のメンバー……そして、


「久しぶり、かな。氷帝の皆」


氷帝レギュラーたちの姿があった。


「っ、お前ら……っ」


いきなりの事で驚き、思わず立ち上がった。


「……跡部?」


あっちも知らなかったのか、揃いも揃って驚きの表情をしていた。


「跡部さん……何でここに?」


日吉が言うが、それはこっちが聞きてえよ。
何で、ここにこいつらが居る?


「……結果は、良かったみたいだね」
「ああ。皆、決心したようだ」


真田が前に出て来て話す。


「……どういうことだ?幸村」
「実はね、今日、立海の皆を氷帝に向かわせたんだ」


立海の連中を……?何故だ?


「俺達で、氷帝の気持ちを確かめに行ったんだ」


気持ち……?
っ、まさか……!


「未玖のこと……話したのか……?」
「「「………」」」


俺の言葉に、氷帝の連中は黙った。


「ああ。それに、会ってももらったよ」
「っ、幸村……っ!」
「跡部の願いでしょ?」


幸村のその一言に、俺は言い返せなかった。


「跡部は……元に、戻りたいんでしょ?」


そうだ。
俺は……昔の、俺たちに戻りたい。
だが……いきなり、そんな急に会うなんて。


「これで……未玖が……」
「それは心配無い。皆、未玖を刺激するような事は言わなかった」


柳の言葉に、少しほっとした。


「……跡部、俺たち……」


ジローが俯きながら呟いた。


「跡部さん……未玖先輩が……笑ってました」
「……ああ」


泣きそうな、情けない顔で鳳が呟く。


「本当に、忘れちまったんだって……」
「改めて、実感しました……」
「……ああ」


今のお前らの気持ちが、痛いほど分かる。
俺も初めて未玖に会った時、悲しかった。
嬉しかったが、悲しかった。
未玖の笑顔が、本当に辛かった。


「俺たち……決めたんだ」
「このことを……しっかり未玖に謝りたいんや」
「……ああ」


あの頑固な向日や忍足まで。
……立海の連中が、そうさせてくれたんだな。
俺一人では、こんな結果になっていたか分からない。……というか、できなかったから今があるわけだ。


「跡部……本当にごめん!」
「……謝るな。……俺だって、加害者だ」


未玖を守ることが出来なかった。
動くに動けない、傍観者。


「……俺、未玖の事好きだC……。だから、我儘なのは分かるけど、前の未玖に会いたい……」


ジローが真剣な眼差しで俺を見てきた。


「跡部さん、俺もです。俺も……前の未玖先輩に会いたいです」


鳳も……。
この二人は……前に戻ったみたいだな……。


「……っ、お前ら……」


そう思うと、目頭が急に熱くなった。
元に戻った。
前の憎しみに溢れた氷帝テニス部じゃなく、ずっと前の、思いやりに溢れた氷帝テニス部に……。


「……跡部、本当にすまんかった……」


あの忍足でさえ……。
一番、未玖を憎んでいた、忍足でさえ……毒気のない顔をしている。


「跡部さん……俺も、動けずにすみませんでした……」


日吉……。
こいつも、決心したんだな……。


「未玖が悪いんじゃない……」


宍戸も……。
未玖への気持ちを押し殺して、あいつを守った、宍戸も……。


「全部、あいつがやったんだよな……」


岳人……。
こいつも、自分の間違いに気付いたんだな……。


「……首を突っ込むようだけど」


隣に居た幸村が急に声を掛けてきた。


「……未玖を陥れた奴って……どういう子なんだい?」


ああ……この質問か……。
俺を含む氷帝メンバーの表情が一気に暗くなった。
……思い浮かべたんだろう。あいつの姿を。
皆、中々口を開かない。


「……未玖を陥れた奴……名前は、塚原……」


沈黙を破ったのは、俺だ。
そう、忌々しい……あいつだ。


「……塚原?」
「ああ、塚原栞。……未玖の後からうちのマネージャーになり、未玖を虐めていた主犯だ」


……俺も、油断していた。
接した期間は短いが、良い奴だったから……マネにしちまった。


「……あんな奴に騙されてたと思うと、恥ずかしい……」
「……そう、だな……」


皆、深く反省しているみたいだ。
少し前のあいつらからは想像もつかない姿。
……立海が、そうさせてくれたんだな。


「……幸村」
「なんだい?」
「……ありがとうな」


そう一言言うと、幸村は少し驚いたようだがすぐに微笑して、


「言ったでしょ?動かしてもらうって」


……あれは、この事だったんだな。
立海には頭が上がらないな。……本当に、感謝している。


「立海……さっきは、ほんますまんな。……部外者扱いして」
「もう、いいんですよ」
「そうだな。……今は、未玖の事を考えるんだ」
「……ありがとな」
「本当に、すみません」


いざこざも無くなった所で、これからの事について、話し合った。

一日、二人ずつ。
交代で未玖の見舞いに行くことになった。
……少しでも、俺たちに慣れて欲しいからな。
立海は同じ時間、幸村の見舞いに行ってから、俺たちとは入れ替わりの形で未玖のところに行く事になった。

そして、

……俺たちは、これから起こる不幸に、気付く事が……―――――