これが、君にとって辛いことは分かってる。
これが、折角の君の人生を狂わす事は分かっている。

でも……
二度と、後悔しないように。


……ごめんね……―――





幸村side



……そろそろ、来る頃かな……?
俺たちには、今の未玖を守る事が出来ない。
実際に、氷帝にいて、常に未玖の事を見てきた人物じゃないと。
……だから、立海を氷帝に向かわせた。
何とか氷帝に罪悪感を持たせて、希望をちらつかせて、未玖の元に来させる為。


「……精市?どうしたの?」


考え込んでた俺に、心配の表情を見せる未玖。


「ううん、何でもないよ」
「そう?それなら良かった」


安堵の息を吐き、にこりと微笑をする未玖。
……ごめんね。
今日、この日を境に、また変わるかもしれない。
もしかしたら、過去の事を思い出すかもしれない。
……でも、思い出して、本当に幸せになった、未玖に会いたいから。


「……跡部」
「何だ?」
「そろそろ、俺の病室に行こうか」
「……ああ」


跡部の、願いでもあるしね。


「あれ?もう、行くの?」
「うん、多分、立海の皆とか来ると思うから、ここに居てね?」
「うん、分かった」


未玖……未玖……。
お願いだから、
次会ったときも、その笑顔が、ありますように……。





No side



立海と氷帝のメンバー全員が、病院に着いた。
立海は、何やら難しそうな顔をして、氷帝は、未だ罪悪感を抱いている。


「……ここの、3階だ」


柳が先頭に立ち、その後ろをぞろぞろと歩き始めた。
ここに。ここに、未玖が居る。
そう思うだけで、心が張り詰めた。
本当に、会っていいのか。
会ったとして、自分たちは笑えるだろうか。

今になり、不安も積もってきた。


「……いいか、確認するが、絶対過去に触れるような事を言うな」
「……ああ」
「分かっとる……」


氷帝の目が段々決心の色に変わった。
話しかけよう。
笑いかけよう。
昔みたいに、自然と触れ合おう。

コンコン。

柳がゆっくりノックをした。


「はーい」


どきん。
中から、未玖の声がした。
今までと違う声という事が、表情を見て無くても、ドア越しでも分かった。


「俺たちだ。……入っていいか?」
「あ、蓮二たち?どうぞー」


ガラ、と柳が静かにドアを開けた。
意外と広い病室には、立海、氷帝全員が入ることができた。


「……未玖さん、」
「なぁに?赤也」
「……いえ、何でもないッス……」


赤也が何か言いたそうな顔をしたが、すぐに口をつぐんだ。


「……あの、」


未玖が氷帝へと目を向けた。
それぞれ、未玖の言葉に緊張感を持つ。


「……あなたたちは、誰……ですか?」
「「「……っ」」」


やっぱり、忘れてしまっている。
未玖にとって、幸せな事なのに。
自分たちが傷つく資格なんて無いのに……。


「……俺、芥川慈朗って言うC〜」


そんな中、逸早く言葉を出しのが芥川だった。
未玖のために、優しい表情を心がけている。


「……俺は、鳳長太郎です」


続いて鳳が自己紹介で繋げた。


「……日吉若」
「……し、宍戸亮だ……」
「……お、俺、向日岳人」
「……忍足侑士や」


改めて自己紹介するのには少し抵抗があったが、皆優しく声を掛けた。


「皆、未玖の見舞いに来てくれたんだ」
「えっ、そうなの?わぁ、ありがとー!」


柳に言われ、にこっと笑顔でお礼を言う未玖。
久しぶりの未玖の笑顔に、氷帝の誰もが何も言葉が出なかった。
消えてしまった、二度と見れないと思っていた未玖の笑顔。
氷帝の心を揺れ動かすには、充分だった。


「(……未玖が……笑ってる……)」
「(本当に……未玖、なんだよな……?)」
「(本当に……見れる、なんて……)」
「(……何でやろうな……未玖の、笑顔に……)」
「(凄く……涙が出そうになります……)」
「(……何だか、嬉しいC〜……)」


目頭が熱くなったのは、全員同じだった。


「……あれ?どうしたの?」
「……いや、何でもあれへん……」


未玖に顔を覗き込まれ、忍足は涙を隠すために目頭を指で解した。


「え、でも……」
「き、気にするな……」


心配そうな未玖に、隣にいた宍戸が手を振って何でもないと誤魔化す。


「……皆さん、氷帝の生徒ですよ」
「えっ、ほんと?わぁ、すっごーい!」


フォローのつもりか、柳生がそう声をかけると未玖は目を輝かせて氷帝メンバーを見た。


「あはは……たくさん来てくれたのに、誰も覚えてないなんて……本当、情けないなぁ」


だがすぐに、さっきとは打って変わってしょんぼりする未玖。
お見舞いに来てくれるほどの仲だろうに、覚えていないことが心苦しいのだろう。


「未玖、気にするなって言ったろぃ?」
「今は、身体を治しんしゃい」
「ん……ありがとう」


氷帝メンバーは、本当に自分達が情けないと思った。
こんな時、自分達には声を掛ける事が出来ない。
まだ……そんな事、許されない。


「ねぇ……私と、また友達になってくれる?」
「「「えっ……」」」


いきなりの未玖の言葉に氷帝メンバーは驚きの表情を見せる。
まさかそんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。
立海メンバーも、未玖がそんなことを言い出すとは予想外だったようだ。


「……なんて、知ってる人に言ったら失礼だよね……」


あはは、と目を細めた。
それは何気にしょんぼりしているようにも見えた。


「……勿論だよ!俺からも、友達になってほしいC!」
「えっ?」


一度は驚かれ、変なことを言ってしまったと後悔した未玖だが、芥川の言葉に顔を上げる。


「当たり前ですよ、俺たちこそ、よろしくお願いします」
「……そうだぜ、俺たちだって……仲良く、したいからよ」


日吉と向日が続いて言った。


「……そうや、今度こそ……ちゃんと守ったる」
「?……あ、ありがとう」


未玖は、忍足の言葉の意味が分からいようだったが、嬉しそうだった。


「あ、もうこんな時間だ」


未玖が時計を見ると、もう夕方5時を回っている。


「もうそろそろ帰らないと、未玖の迷惑になるな」
「そんな事ないよ、蓮二」
「でも、時間だしな……。俺たち、帰るぜぃ」
「そう?」
「ああ、帰りに幸村の所にも寄らねばならんからな」
「そっか……。あ、あの、氷帝の皆さん!」


出て行こうとする後姿を、未玖が止めた。
呼ばれた氷帝は、少しびっくりしたようだ。


「えっと……またお見舞いに……来て、くれる?」


少し遠慮がちに言う。


「……勿論や」
「明日も来ますよ」
「そっか……ありがとう」


だがすぐに快い返事を聞いて、未玖はほっとした。


「それでは、またな」
「うん、また明日!」


こうして立海と氷帝は、未玖の病室を後にした。