過去、想い、真実。

どれも、受け入られなかった。
そして、本当に、知ってしまったとき。

自分の卑劣さを、誰が笑ってくれようか―――





忍足side



「……俺達は、お前達を殴りに来た」
「「「……っ」」」


……当然やろな。
俺らは、殴られてもおかしくないことをしたんやから。
俺らは目線を下に落とした。


「……だけど、幸村が止めろっつったんだよ」
「……今、お前達を殴っても、解決する訳でもない」
「何より、また未玖が悲しむからの」
「……悲しむ?」


仁王の言葉に宍戸が呟く。
こんな俺らの事で、未玖が悲しむんか?


「未玖は、決してお前たちを嫌いになったわけではない」
「好きだから、これ以上の行為が続くことを恐れたんだ」
「……そう、か」


やから、未玖はいつも伝えようとしてたんやな……。
それなのに……何で俺は気付いてやれんかったんや……っ!

「違うっ、私は……」
「言い訳なんか聞きたくねえよ!」


俺らが勝手に決め付けて、何度も未玖に手をあげたんや。

「お願い……っ、聞いて……!」
「自分の言う事なんか、聞きたないわ」


何度も何度も、必死に伝えようとしてくれた。
それなのに、俺は……っ!
俺たちにそれぞれ後悔の波が押し寄せとる時、柳が口を開いた。


「……未玖に、会いたいか?」


……そんなの、決まっとる。
さっきまで全部否定して、隠して、誤魔化そうとしとった俺が言うのもなんやけど。
俺かて……後悔でいっぱいやったんや。
そんな俺らにも、柳はそう優しいことを聞いてくれるんやな。


「会いたい」
「俺も……っ!」


次々と『会いたい』と言う言葉が飛び交う。
謝りたい、許してほしい……いろんな気持ちはあるけど、何よりも無事な未玖の姿を見たい。


「っいいんスか!?柳先輩!」
「赤也、精市が言っただろう」
「……っ」
「……会わせるのは良いが、未玖の記憶や感情に触る事は言わないでくれ」


それは、俺らや氷帝の事か?
でも……当然やな。
今俺らのことを思い出させても、傷つけるだけや。


「……分かった」
「……付いて来い」


柳の言葉で部室から、神奈川の病院へと向かった。
その間、誰も言葉を発する事は無かった。





宍戸side



……俺が、悪かった。
本当は、気付いていたのかも知れない。
でも、今まで未玖に対してやってきた事を……。
あんな、卑劣な事をやってきた事を、認めたくなかったんだ。
未玖は、俺たちが殺してしまったという事を、認めたくなかったんだ。

………生きていて良かった。
未玖が死んでないと聞いた時、本当にそう思った。
……なんて、ゲンキンなんだろうな……。





向日side



立海の奴らが来て、未玖の事を聞かれた時、正直やばいと思った。
未玖の事を知っている。
俺たちがやってきた事を、知っている。

咄嗟にそう思い、何を聞かれても否定した。
未玖について話してしまったら、自分が未玖を追い詰めた事を認める事になるから。
実際、そうなんだけどよ……。

今、未玖の元に向かってる。
俺は、未玖にちゃんと償いたい……。





芥川side



いきなり立海が来て、未玖の事を聞かれて、マジ驚いた……。
まさか未玖の事を知ってるなんて、思わなかった。
忍足は、認めたくなかったみたいだけど、俺は同じ事を繰り返したくなかったんだC……。

未玖の事、大好きだった。
いつも、温かくて……優しくて……膝枕してくれて……。
でも、それも俺たちが壊したんだ。
俺たちが……未玖から未玖を奪ったんだ……。





鳳side



忍足さんたちが否定している中、ジロー先輩は認めた。
自分がやった事、未玖先輩を、追い詰めた事。
俺は、正直迷っていた。
認めて、立海の皆さんから何か言われるのが怖かった。
でも否定して、隠し続ける勇気もなかった。

どちらにしても……俺は弱いんだ。
未玖先輩を守る力も、信じる勇気も、持っていなかった……。
今更でも、自分のした事を認めたジロー先輩は、凄いと思った。

俺も……素直になれるかな……強く、なれるかな……?





日吉side



俺は、未玖先輩に酷い事をしてきた。
否定する未玖先輩に対して、勝手に決め付けて、罵声を浴びせた。
実際に暴力を振わなかったが、それでも未玖先輩を傷つけた。

未玖先輩が飛び降りた時から、今まで、俺達は抜け殻みたいに何も感情が無かった。
どうしていいのか分からずに、でもどうすることもできなかった。
だから、立海に未玖先輩の事を聞かれて、忍足さんたちは焦ったんだと思う。

気付きたくなくて、気付かれたくなくて、認めたくなくて。
俺は……未玖先輩が飛び降りた時から、認めていた。
自分は……何て事をしてしまったのかを……。





揺れる電車の中。
皆の想いも、揺れていた。