小さいと思っていた君の背中。
いつの間にか。

とても大きく見えるよ―――





幸村side



咲乱が俺の服の袖を掴みながら震えていた。
きっと、織の事を思い出したんだろう。


「………っ」


咲乱。
織は、確かに辛かったかもしれない。
でも、それは咲乱の所為じゃないんだよ…?
自分を責めないで。


「……織が飛び降りた後、矛先は…やはり咲乱へと向かった……」


織の思い通りになった。
と、いう事だよ……。
青学の信頼を得ていたのは、織が飛び降りた後、今まで以上の辛さを咲乱に味あわせる為だったんだ……。





「っ不二先輩……」


初めに人殺し、と言ったのは不二だった。


「っ!?」


咲乱は、その言葉に反応した。
そして、考えたんだ。
自分がもっと織の事を考えていれば、最初から織はこんな事をしなかった。
織を死に追い詰めたのは自分だと考えるしかなかったんだ。
大好きな兄が、自殺した。
なんて…考えたくなかったんだ。


「……私……が…織を……」
「そうだっ!お前が……織を殺したんだ……っ」
「っほんと、最低ッスよ……」
「……蓮杖、お前は何で織を……突き落とした」


手塚が咲乱を睨み、聞いた。


「……何で…?私、は……」


咲乱は、自分で織を殺した、とは考えた。
でも…
それを認めたくなかった。


「っ…殺してなんか…ないっ…」
「!?てめえ、ここまで来て何を…」
「認めろよっ!」


認めてしまったら、それこそ織の思い通りになってしまうから。


「違うっ!私じゃ……ないっ。私は、織を殺したりなんか……っ」
「嘘付けっ!」
「誰がお前の言うことなんか信じるかよっ!」
「〜〜っ」


咲乱は飛び出した。
『誰がお前の言うことなんか信じるかよ』
その言葉を、聞きたくなかった。

「誰がお前なんか信じるかよ」


織の言葉と重なるから―――


「…結局、青学は咲乱を最後まで信じなかったんだな…」


跡部が呟く。


「…そう。誰も信じようとしなかった。……ほんと、腐ってるよ……」


未だに俺の袖を掴んでいる咲乱。
こんなに、咲乱は傷ついていたのに。
どうして気付かないんだ。


「………咲乱、落ち着いた…?」
「……ん、少し…」


喋り方からして、落ち着きを取り戻したのは分かった。


「……続き、まだ俺が話そうか?」
「…も、いい。私が話す……」


本当は、話したくないだろうに。
今でも、俺は逃げようとしてる……。
咲乱の、こんな姿を見たくなくて。
辛すぎだよ。


「……私はしばらくショックで立ち直れなかった。……3日程、学校を休んだわ」


話し始める咲乱。
俺は、後ろから咲乱の背中を見た。
この小さな背中に、どれくらいの想いを抱えてきたのか。
どれ程の辛さを乗り越えてきたのか。

咲乱、君は充分強いよ―――