人がされて、一番辛いことって、何だと思う?
暴力?
悪口?

……違うよ―――





本当は、愛美が寝込んでいるのを聞いて、嬉しかった。
今日という日を、静かに……何事も起きずに過ごせるなら。
私は愛美に感謝したいくらいだった。


「……織が、何を考えているかなんて明白だった」
「「「………」」」


私の話を、静かに聞いてくれる皆。


「……織は、小さい頃から私が大嫌いで……憎んでいて……」


私を邪魔だと思っていた。


「………」


私は、静かに深呼吸をした。


「皆は、人が一番傷つくことは何か、知ってる―――?」





織に次はないと言われた次の日。
教室に入ると、いつもの雰囲気より軽かった。


「昨日のテレビ見たー?」
「見た見たっ!すっげー面白かった!」


周りからは友達同士で話す、楽しい話題。
そんなの、普通なのに。
でも、違うの。
私のクラスでは……こんな雰囲気、今まで無かった。


「……?」


いつもなら、私を見た瞬間に、憎悪の目で見、陰口を言ってくる。
でも、今日はそんな雰囲気、全く無かった。


「英二、宿題やってきた?」
「…う、やってにゃい…」
「もー、英二ったらー…怒られるよ?」
「う〜〜愛美、見せてっ!」
「ん…いいよっ」


私の隣の席で、3人が固まって話してる。
私は静かに自分の席に行き、教科書などを引き出しに入れた。

誰も、私を見ていない。
誰も、私の事を言っていない。

嬉しい……はず。
だって、あの痛いくらいの視線で見られてないんだよ?
真実じゃない噂を言われてないんだよ?
……どうして、こんなに苦しいの?
何、この孤独感。
虐められている時とは別の、孤立感。


「愛美〜〜…ここわかんにゃい」
「えーと、ここは……」
「くす。全く、英二は馬鹿だね」


誰も私を見てくれない。
見て欲しい、なんて思ってないのに。
どうしてこんなにも不安なの?


「あははっ!英二、それ違うよ!」
「えっ、そうにゃの?」


ねえ、私はここに居るよ?
……存在してる……よ?


「くす、ここも違う」
「えー!」


悪口で煽られてもいい。
私の存在を認めて。
私がここに居るって。
見て、言葉を発して、私の存在を分かって。

無視をされるのがこんなに辛いなんて思わなかった。
存在がないものには、話すことも、見ることもできない。


「よ〜し、これだなっ?」
「あっ、当たってるぅ!」
「まぐれかな?」


私は存在しているの?


「…………」


無意識のうちに、不二の服の裾を掴んでいた。


「………」


不二が、少し振り向き、私を見た。


「あっ……ごめ…「宿題、進んだ?」―――っ」


無視―――
あたかも、存在してないかのように。


「っ……」


私は、その場を駆け出した。
廊下をすれ違う人、誰も私を見てくれてない。

私の存在は確かなの―――?