たった一人、受け入れてくれたんだよ。
自分のした事を、ちゃんと分かってくれた。

そして、『守る』と言ってくれた。

本当に、嬉しかったよ―――





ある日。
その日は、いつもより虐めが酷かった。
身体中傷だらけになって、私は学校を飛び出すように帰ってきた。


「………咲乱……?」


すると、いつもは仕事で夜遅く帰ってくるお母さんが家に居た。


「………っ」


ボロボロの服を見て、お母さんは私を凝視していた。


「……ど、どうしたの…?その傷……」


ゆっくりと、私に近づき、私と目線を合わせた。
その目は、最近いつも見ている釣り上がった目じゃなくて……。


「……っ何でもな…」
「何でもないわけないでしょ…?ねぇ、お母さんに教えて……?」


目を細めて、心配して私を見てくれてるお母さん。
いつもより、ずっと優しい目だった。


「っおか……さん……っわたし……」


それが、凄く嬉しくて。
私は涙を流した。


「……っ辛い思い、させちゃったのね……?」


お母さんは、何があったか気付いたように私を抱き締めてくれた。


「ごめんね、私がしっかりと見ていなかったから……」


抱き締める力が少し強くなった。


「…お母さんは、悪くないよ……?」


悪くない。
お母さんは、悪くない。


「悪いのは、私だよ…?お母さんは違う……」


私が、人の気持ちを考えないから。
織が、こんな事をするんだ。


「あなたは悪くない」


涙目で、私を見た。


「悪いのは―――」


そうお母さんが言いかけた時、


「っ!?」


いつの間にか、ドアの隙間から織の姿が見えた。
私のことを追いかけてきたんだと思う。


「……っ」
「悪いのは、私……」


言った瞬間、織が私たちを冷たく見た。


「―――!」


そして、狂ったような笑みを見せた。

その笑みが何を意味しているのかは分からない。
ただ、その時悪寒が走ったのを覚えている。
織が居た事をお母さんが気付くはずもなく、ただ、私に謝り続けていた。


「咲乱…これからは、私が貴女を守るわ……」


優しく、私を抱き締めながら―――





「……何か、不気味ですね。その、織という人は」


話の段落がつくと、日吉が呟いた。


「…ああ、そうだな。……意味が分かんねぇ…」
「……ただ分かんのは、自分の事しか考えとらんっちゅうことやな」


忍足の言葉に、皆が黙る。


「……それじゃあ、もう一つ…」


そろそろ時間が無くなってきたのを感じ、私は次の話へと移った。





お母さんが私を信じてくれて、織が狂気的な笑みを残した1週間後。


「それじゃあ、行って来るね」


それは、とても大きい嵐の日。


「……本当に、行くの…?」
「うん。……今日は、外せない仕事だから…」


私の家はお父さんが居ない。
その分、お母さんが頑張ってくれているから。


「それに、もう卒業式でしょ?たくさんお金を溜めて、お祝いしないとね」
「……お母さん…」
「……だから咲乱、待っててね?」
「うん……」


本当は、離れたくなかった。
ずっと、お母さんと一緒に居たかった。
その日は。


「お母さん、いってらっしゃい」
「行ってきます。織」


珍しく、織が笑顔で見送っていたから―――