知っていたんだよ。
でも、確信したくなかっただけ。

だって、兄妹だもの。
ただ、気付きたくなかっただけ―――





「皆は、織が私を嫌ってた事、知ってたよね…」
「ああ、立海の奴等に聞いた」
「小学校ん時から虐めがあったんやろ?」
「そう。その虐め、私は織がやっている、と薄々思ってた」
「「「……!」」」
「……でも、何も言わなかった」


それに、気付きたくなかった。
だって、たった一人の兄妹だもの。


「……織は、昔は本当に優しかった…」


本当に、たくさんの笑顔を向けてくれた。
私に勉強を教えてくれたり、一緒にスポーツをしたりもした。
私は物覚えが良いらしく、すぐに何でも出来るようになった。
そして、
気付くと、織は私を冷たい目で見ることが多くなった。


「私が褒められたりすると、織は物凄く怖い目で私を睨んだ」


それが、嫉妬の塊だった。


「小学校で虐められるようになってから、私の成績はどんどん落ちていったの……」
「……それが、そいつの狙いだったのか……?」
「…そんなの、逆恨みじゃないですか…」


宍戸と鳳が俯きながら言う。


「……織の狙いはそれだけじゃないわ。私の、苦しむ姿が見たかったのよ」


そう。
それが分かったのは、あの日―――





「咲乱、最近どうしたのよっ」


テストの点で悪い点を取ったりすると、お母さんが怒鳴ってくるようになった。
心配するというよりは、思い通りにいかなくて怒ってる、の感情が大きかった。


「この前まではいい子だったのに……。今では授業態度も悪いって先生からも言われてるのよ!」


先生は虐めの事なんて知らない。
知ってもらいたいとも思わなかったから、言わなかった。


「……ごめん…なさい…」


私は、謝るしかなかった。


「……お母さん、咲乱のことをそんなに怒らないで…?」


俯く私を庇うのは何時も織。


「……織は本当にいい子ね…。……咲乱、もう少し織を見習いなさい」


いつも決まって、そう言う。
そして、私の説教が終わる。
いつの間にか、立場が逆転していた。


「………母親って、単純だよな」


二人きりになって、織が呟いた。


「……結局、出来の良い奴が可愛がられるんだよ」


後ろから見た織の口元は、笑っていた。


「……お前の、その顔を見るのが楽しみになってきたよ」


そうして、部屋に戻る。
こんな事が続くようになった。





「……母親も、ちっともお前等の事分かってねぇんだな」
「…せやな、成績でどうこう言うこと無いやろ」
「……そう、よね。でも、私にはたった一人のお母さん。嫌いになれなかった……」


そうやって、いつか気付いてくれることを望んでいた―――


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