早く来て……。
暗闇は嫌だ……。
皆が、離れて行っちゃう……。
そんなの、嫌だ。

……助けて。

お願い―――





「………っ」


暗闇の中、咲乱は気を失っていた。


「…やだよ……」


その瞳には、涙を溜めて……。


「……お、母さん…」


何度も、誰かの名前を呼んで。


「離れて……いかないで……」


指が、微かに地面を削って。


「………あ…とべ……」


頬にはとうとう涙が伝って。


「…み……んな……」


脳裏に映っているだろう仲間の顔。


「……怖い、よ………」


肌には闇を感じている。


「……助、け……て……」


心から助けを乞う。


「……咲乱っ、咲乱!」


その想いが通じ……。


「ここだなっ、咲乱!」


今、助けが来た―――





跡部side



「咲乱!」


咲乱は、暗い倉庫の中に居た。
……地面に、倒れて、言葉を呟いていた。


「……あ……と、べ…」


俺の名だ。
咲乱が、俺に助けを求めていた。


「咲乱!しっかりしろ!」
「……ん……っ」


抱き起こすと、意識を取り戻したのか、瞼が微かに動いた。
……やっと、見つけた……。


「……跡部さん、見てください、この扉……」


鳳の言葉に、咲乱から眼を離し、扉を見た。


「…えらい、叩いた痕や、引っかいた痕があんなぁ…」
「……咲乱の手、めっちゃ赤いぜ…」


…こいつらの言った通りだ。
ドアには無数の傷があり、
咲乱の手は腫れ上がり、
地面にも、何度も擦った痕があった。

……咲乱は、助けを求めていた。
必死に。あの、咲乱が。

「あんたにはあんま期待してないから」

人に、全く頼ろうとしなかった咲乱が。

「必要以上私に関わらないでね」

興味の無いものには、全く関わりを持たなかった咲乱が。

「…私は、もう誰も信用しない」

俺たちを、見限ってた咲乱が。
俺に……。
俺たちに……。


助けを求めている――――


「………ぅ…っ」
「咲乱!気がついたか!?」
「……あと、べ?」
「ああ、俺だ」


咲乱は、周りを見渡した。
状況を、判断しているんだろう。


「……あ……そだ、私……」
「菊丸と桃城に閉じ込められたんだよ」


宍戸が眉を寄せて言った。


「咲乱さん……大丈夫ですか?」
「……あ…」


すると、咲乱は手を俺たちに向かって上げた。
少しふらついて、たまに空を切った。
その手を、俺はしっかりと握った。


「咲乱……もう、大丈夫だ……」


言うと、咲乱は眼を細くして、


「………あり、がと…」


微笑んで、お礼を言った。
あの、皮肉な笑みしかしなかった咲乱が、俺たちに微笑んでくれた。
その表情は、酷く俺たちの心に印象付けた。


「……っ、咲乱…」
「ほんますまん……遅うなって……」
「咲乱さん……」
「もう、安心してください…」
「咲乱〜……」


皆、咲乱に寄った。
中には、涙を溜めている者も居た。


「来て…くれるって、…信じてた……」


『信じてた』

その言葉は、本当に嬉しかった。
ずっと、守りたかったんだ、咲乱を。
何でも一人で抱え込んでしまう咲乱を。
それが、咲乱に伝わった……。


「……もう、意識は平気ですか?」


日吉が聞くと、咲乱は小さく頷いた。


「……立海の、皆は?」
「……青学と、話をしています」
「…そう」


咲乱は、一瞬天井を見て、また、俺たちを見た。
……話す、決心がついたんだろう。


「……今の内に少し、話しておくね……」


咲乱の、過去……。
織という人物の事を……。