名前を呼んでくれる事。

それは、ちゃんと存在しているからでしょ?
存在を、認めてくれたんでしょ―――?





暗闇の中、私は扉に辿り着いた。


「誰っ?開けて、開けてよっ!」


扉を両手で叩き、開けるよう要求する。
誰なのかは、分かっている……。


「……もう、俺たちの前に現れないでよ…」
「…俺たちの、邪魔をしないで下さい……」


菊丸と桃城……。
予想は、していた。
でも、違っているのは、冷静だということ。
この二人は、愛美のこととなると、興奮しちゃうのに。
不気味な程、冷静だった。


「やっ……あ、開けて!」
「…咲乱には悪いけど、さ」
「咲乱先輩……消えて下さい」


扉越しからは、とても静かに聞こえる声。
……多分、顔も無表情だろう。


「っ、桃城…菊丸……っ!」
「…俺たちが、こうなったのは、……全部咲乱の所為なんだ…」
「これ以上、かき回さないで下さい……」


菊丸は、いつもの調子の良い声音じゃなくて。
桃城は、全然元気さがなくて。
今までと、全然違う二人だった。


「…けて……開けて……っ」


私は、それでも必死で扉を叩く。
暗い所は、こんな行為を受ける事よりも嫌いだ。
一人だということを思い知らされる。
一人は怖い。


「俺たち、愛美が全てなんだ…」
「もう、後戻りはしません…」


もう、二人の言葉なんかほとんど耳に入ってない。
それでも、二人は呟きを消さない。


「出して…っ、出して……」


今の私の脳内は、暗闇から必死で逃れようとしている。
目を見開いて
扉を叩く手は赤く
足から力が抜けて、崩れ落ちた。


「お前の親な、死んだんだとよ」
「ははっ、傑作だよな」
「何が守る≠セよな。こんな状況の中、勝手に逝っちまってよ」
「これでもう、本当に独りだな」


それでも、必死で扉を叩く手は休む事を知らず。
目を閉じて、深い闇を見たくない眼は瞬きを忘れ。


「本当…咲乱なんて、大嫌いだよ……」
「俺も…咲乱先輩なんて、大嫌いッス…」


足音がして、離れて行くのが分かった。


「やっ、だ……嫌、嫌、嫌いや…っ!」


名前を言いながら、こんなことをしないで。
存在を知りながら、消そうとしないで。


私を独りにしないで―――