どうして?
気付いたのに。

この人は、何を考えている?
気付いているのに。

どうして?
動かない―――?





越前side



俺は、2階の東側に渡る通路を渡ろうとしていた。
咲乱先輩に、会いに行こうと思ってたから。
すると、思わぬ人物に出くわした。


「……桃先輩?」
「!?……っ、越前」


俺の顔を見た瞬間、あからさまに動揺した。
ここは東側に渡る通路。
東の階に、青学の人たちは居ない。


「……何でこんな所に居るんスか?」
「………」


桃先輩は何も言わず、ただ俺から目を逸らした。


「……咲乱先輩の所に、行こうとしたんスか?」
「……っ」


桃先輩は眉を寄せ、唇をぎゅ、と噛んだ。
……図星みたい。


「……越前、お前は……」
「………」
「…お前は、何であいつの味方に?」
「……咲乱先輩のことッスか?」


言うと、桃先輩は小さく頷いた。


「……理由なんか無いッスよ」


見たままの位置についただけ。
どう考えても、咲乱先輩は苦しんで
どう考えても、藤堂先輩はおかしい。
どう見ても―――


「……最初の質問に戻るッス。…何で、ここに居るんスか?」
「……あの、ドリンク……」
「………」
「……すげぇ、懐かしかった……」
「……気付いたんスか?」


咲乱先輩が作ったと。
あの頃、咲乱先輩が居た頃と、同じ味だと。


「……俺は、……咲乱先輩のドリンクが、好きだった……」


辛そうに、拳を握った。
ああ、桃先輩から咲乱先輩の名前を聞くの、久し振りだ。


「……咲乱先輩が、居なくなった後……。ドリンクの味が違った事に、気付かなかったんスか?」
「……あの頃、色々あった…。愛美先輩や、織さんの事で……」
「……っ」


今、桃先輩は迷っている……?


「っ、いつから……こうなったんだよ……っ」


悪いのは俺たちだよ、桃先輩。
咲乱先輩を信じず、裏切った先輩たち。
咲乱先輩を守れず、何もできなかった俺。
だから、皆―――


「桃先輩……」
「後悔してても、意味ないんだよ…」
「……っ?」


桃先輩の顔が、変わった。


「今更気付いても、遅いんだよな…」
「……え、」


何を、言ってるの……?


「俺たちは、愛美先輩を守る……」


気付いたんじゃ、ないの……?


「それしか、できねぇんだよ……」


どうして―――



「……それで、いいんだよ」


廊下の横の階段。
影から聞いていたのは―――


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