たまたま掛けられた言葉。

それが 私の人生を大きく左右する事になるとは
微塵にも思ってなかった―――





正直、跡部景吾なんて存在、どうでも良かった。
生徒会長?テニス部部長?
そんなの、私には関係無い。
私はただ静かに、誰にも邪魔をされずに、学校生活を送るだけ。
こいつも、隣ってだけでお互い特別な感情なんかない。
……なのに、


「…何があった」


何で私に構うのよ。
私をこんな所に連れて、ヒーローにでもなったつもり?
それなら質問に答える気なんか全然無い。


「…何でこんな所に連れてきたのよ」
「怪我してるだろ?それにここが一番静かだ」
「………」
「それより、俺の質問に答えろ。何があった」


しつこい。やっぱりこいつはあんまり好かないわ。
私のことなんて、放っといてよ。
言ったって、どうしようもないことなのに。


「…どうでもいいじゃない」
「俺に関係の無いことか?」


でも、結構鋭い。
その観察力は大したものよね。
でも、そんな風に、真っ直ぐに見られて、図星を突かれるのは嫌い。


「………」
「聞いてるだろ?蓮杖咲乱」


…はぁ、どうやら、何を言っても無駄みたいね。


「…あんたの所為」
「……!」
「…って言ったら?」
「…本当の事を言え」


あら、そろそろお怒りかしら?
ま、面倒だけど話してあげようか。


「ふふ、半分本当よ。もう半分は私の性格の所為ね」


自分でも分かってる。この憎たらしい性格。


「アンタなら一番分かってるんじゃない?ねぇ、お隣さん」


私は、興味無いものには冷めてるからね。
こいつにも素っ気なく接しているから、分かってると思うわ。
さあ、口を開いたら出る言葉は何?
他の奴等と同じように生意気って責め立てる?
それとも、可哀相な性格って、見下す?


「はっ、そうだな。俺にいつも突っかかってくるのはお前くらいだぜ」


…何よ。何で笑って言うのよ。
どう返していいのか、分からなくなるじゃない。


「あら?あんたが突っかかってくるんじゃないの?」


私の口から出るのはやっぱり憎まれ口。
正直、この性格を恨んだこともある。
素直になる事を忘れた性格を。
人から嫌われるような事しか出来ない性格を。


「俺様が挨拶してやってんのに無視するからだろ」


…でもそれは私だけじゃないみたい。
あんたも、随分生意気だよ。
いや、生意気と言うより、俺様…だね。


「ほら、始めに言葉を掛けて来るあんたの所為じゃん」


そう、こいつは何かと声を掛けてくる。
うざったいとばかり思ってたけど、
それも、結構気に入ってたのかもしれないわね。


「……本当に生意気だな」
「それはどうも」
「褒めてねぇよ」


あんたから言われると、褒め言葉に聞こえるわ。
お互い、皮肉なものね。


「…で、何があった?」
「…女の醜い嫉妬よ。あんたと言葉を交わすことが気に入らないんですって」


ほんと…醜いわ。
嫉妬なんて、一番嫌いなことよ。


「あと、さっきも言ったように私のこの態度。チビのクセに生意気なところも気に入らないみたいよ」


私だって気に入って無いわよ。この性格。


「…で、殴られたと」
「そ。相手するのも面倒臭いし、醜いツラ見たくなくてずっと下向いてたし」


ま、嫉妬に狂った顔なんて見慣れてるんだけど。
昔の、あいつらの顔と重なって見えるから。


「…お前、テニス部のマネージャーやる気ねぇか?」
「…どこからその発想が出てくるのよ」


私がマネージャー?こんな性格の私が?冗談でしょ?
それに、テニス部…私の大嫌いな場所よ。
だって、私をこんな性格にさせた原因なんだもの。
…私の性格上、返ってくる言葉くらい、貴方なら予想がつくんじゃないのかしら。


「てめぇは他の奴と違ってギャーギャー言わねぇだろ?後は、やる気さえ出してくれたらいいんだがな」


私は興味がある事しかやらない。
興味の無い人にギャーギャー言うなんて、無駄に体力使うだけじゃない。
そんな事でやる気なんか出ない。


「…お断りよ。これ以上面倒な事になって欲しくない」


テニス部は人気らしい。
それだったら、余計面倒な事になるじゃない。


「それなら大丈夫だ。俺が守ってやる」


守る……ねぇ。


「…それが余計なお世話なのよ」


そんな言葉、信じない。全部、嘘。
口からの出任せ。
嫌というほど経験してるしね?
それに、あんたが傍に居るなんて、また面倒なことが起きる。
……分かって言ってるのかな?この男は…。


「ばーか。この俺様にかかれば雑魚なんてどうでもいいんだよ」


なる程、相当な自意識過剰な奴。


「ふふ。ほんと俺様だね、あんたは」


でも、面白い。
何だか興味が沸いてきたわ。


「アーン?」
「いいよ。マネになったげる。…でも、私は大勢の面倒を見る気は無い。レギュラー以外の面倒は見ないからね」


何でも、レギュラーが人気らしいし?
どれ程のものか、見させてもらおうじゃない。
その他に興味なんてさらさら無いわ。


「ああ。それでいいぜ」


これで成立。明日からかな…?


「じゃ。あと、あんたにはあんま期待してないから」


それは本当の事。
人は信じない。
過去に従ってるだけ。
もう、あんな思いは絶対しない為に。


「はっ、減らず口を。……咲乱」


…名前で呼ばれるなんて、久しぶり。
一瞬戸惑ってしまった。
もう、名前を忘れかけてたのかもしれない。
私は何も言わず保健室から出た。


「……何やってるんだろ、私は」


色々考えた上の決断。
なのに、時が経つと本当にそれでいいのか不安が込み上げてくる。

テニス部の奴等の事なんて、全然知らないのに。
また、あんな事になったら、どうするの?
また、同じ道を進むつもり?


「……もう、忘れるのよ。あんな事」


そう自分に言い聞かせ、家に帰り、明日になるのを待った。


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