ただ純粋に
夢を追いかけたあの頃。

アタシは今でも覚えている。
忘れるわけがない。

今でも―――





竜崎side



「アタシは、あの子が藤堂を虐めてないという事を、初めから分かっておった」


あの子が。
あの、とても傷つきやすい子が、そんな他人を傷つけるような事はしない。


「だが…、どうしても、助けてやれなかった……」


藤堂。
全て、藤堂の仕業だと分かっていたのに……。


「何があったんですか?」


そう聞かれて、アタシは思わず、こう言った。


「……夢が、あったんじゃ」


とても、とても、大きな夢。


「アタシは、ずっと前から青学テニス部を任されておる」


だが…。


「あの子達の全国大会への夢は、今までの奴等より相当大きかった」


部長の手塚を初め、皆が全国大会に向けて必死に頑張ってきた。


「誓い合って」


大石、菊丸は、全国ダブルスナンバー1になると。


「目標を持って」


河村は、一番のパワープレイヤーになろうと。


「必死に努力して」


不二は、あのトリプルカウンターを生み出した。


「自分の力を試すために」


乾は、データテニスを全国に通用させようと、頑張ってきた。


「お互いの事も意識しながら」


同じ2年生で、ライバルとしてお互いに高め合ってる桃城と海堂。


「ただ、ひたすらに、夢を追い続けてきた…」


あの、南次郎の息子、リョーマもレギュラーになった。


「その夢を……壊したくなかった…」


ただ、純粋に、それだけを見つめ、頑張ってきたはずだった。


「…いつから、こうなったんだろうな」


蓮杖。
マネージャーとして、とても優秀だから。
きっと、あの子達を全国へ導いてくれると思っとった。
だが、


「……虐めが、起こった」


藤堂を、中心として。
部内だと思っていた虐めが、やがてクラスに広まり、全校へと広まった。


「アタシは…これ以上問題が起きると、大会に出れないと思った」


その為に。


「夢が…潰れると思った…っ」


今までの事が、全て無駄に……。


「だから……っ」


「我慢してくれ」

そう、蓮杖に言ったんじゃ。
蓮杖さえ我慢してくれれば、そう大きくはならないと思った。


「……っ」


急に、目頭が熱くなった。
一筋の涙が、頬に零れ落ちる。


「あの子を…っ、蓮杖を…助けてやれなかった…っ」


言い終わった頃には、沢山の涙が溢れ出す。
その後は、何も言えなかった。


「……貴女は、今のままの青学で良いんですか?」
「え…?」


そこで、幸村が口を開いた。


「咲乱を傷つけたその手で、テニスをして、満足ですか……?」
「―――っ!」
「…そんな不安定な気持ちで、テニスをして、夢が叶うんですか?」


何も言えなかった。
アタシは、そんなつもりじゃないのに。


「人を傷つけた手でラケットを握り、不安定な気持ちで、ボールに集中しろ、と言いたかったんですか?」


違う。
そんな事、あるわけない。


「…たとえ、それで優勝したとしても、俺はちっとも嬉しくないですがね」


……跡部の、言う通りだよ。
アタシが願っていたのは、純粋にテニスを楽しみ、試合を楽しむ姿。


「貴女は良いと思っとっても、それが逆に、青学を傷つけてたんですよ」


青学を…傷つけ……。


「あ……っ」


アタシは、何年顧問をやってきたんだ。
何年、あの子達を見てきたんだ。
夢とか語っておきながら、何も分かってないじゃないか。
何一つ、あの子達の事を、理解してないじゃないか……。


「アタ、シは…っ」


取り返しのつかない事をしてしまった―――


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