出会いは、
何もそこからじゃない。

お前の事を知っているつもりだった。
だが、接触すれば、するほど。

謎が深まってゆく……―――





跡部side



「…あいつ」


俺の足が自然と止まる。
視線の先には制服はボロボロで、髪は長く、少女のような体格の女。
外はしなやかに風が吹く。
それにつられて少女の髪も揺らぐ。


「―――…」


その姿に、俺は魅入った。
表情は見えないが、それでも美しい≠ニいう言葉にはぴったりな光景だろう。
風が止み、少女はゆっくり立ち上がる。
それと同時に俺は我に返った。


「…ちっ」


見惚れてしまったことに嫌気が差す。
俺は短く舌打ちをし、歩く。


「……くそっ」


自分でも分からないが少女の事が頭から離れない。
足が別の方向に進み、行き着いた先はグラウンド。
少女はさっきと少し離れた場所に居た。
カツン、と俺の足音に気付いたのか、少女は一瞬にして顔を上げる。
俺は特に何も言わずその姿を見る。
すると少女は微かに目を細め、俺から視線を逸らした。


「っ、」


何故か、無意識に俺はそいつの腕を掴んで歩き出していた。


「あんた……」


少女は戸惑ったようだが成されるがままに歩く。


「…優しく、しないでよ」


聞こえないように呟いたつもりだろうが、俺にはしっかり聞こえた。





それからはお互い何も喋らず、俺は少女を保健室に連れて行った。


「…誰も居ねぇか」


こんな時に限って居ない。
…いや、好都合なんだがな。
少女をベッドに座らせ、俺は椅子に座る。


「…何があった」


真っ直ぐ少女を見つめると、少女は目も合わせず、


「…何でこんな所に連れてきたのよ」
「怪我してるだろ?それにここが一番静かだ」
「………」
「それより、俺の質問に答えろ。何があった」
「…どうでもいいじゃない」
「俺に関係の無いことか?」
「………」


やっぱりこいつ……。


「聞いてるだろ?蓮杖咲乱」


こいつは俺の隣の席の奴だ。
だから思い当たる節がある。


「…あんたの所為」
「……!」
「…って言ったら?」
「…本当の事を言え」
「ふふ、半分本当よ。もう半分は私の性格の所為ね」


皮肉気に笑う。
こいつはいつも、そんな笑いしかしねぇ。


「あんたなら一番分かってるんじゃない?ねぇ、お隣さん」
「はっ、そうだな。俺にいつも突っかかってくるのはお前くらいだぜ」
「あら?あんたが突っかかってくるんじゃないの?」


皮肉に笑って、すぐに人を馬鹿にしたように話す。


「俺様が挨拶してやってんのに無視するからだろ」
「ほら、始めに言葉を掛けて来るあんたの所為じゃない」
「……本当に生意気だな」
「それはどうも」
「褒めてねぇよ」


だが、何だかんだ言って、こいつと居ると別の意味で楽しい。
俺の素が出せる。
他の女と違って俺を高く評価しねぇし、
『跡部』としてじゃなく、『俺』として見てくれる。


「…で、何があった?」
「…女の醜い嫉妬よ。あんたと言葉を交わすことが気に入らないんですって」


やっぱり、そういう事か…女の嫉妬程醜いものは無え。


「あと、さっきも言ったように私のこの態度。チビのくせに生意気なところも気に入らないみたいよ」


…まぁ、そうだろうな。
こいつは比較的背が低い。
自分より背が低い奴に生意気言われちゃあ、腹が立つだろうな。


「…で、殴られたと」
「そ。相手するのも面倒臭いし、醜いツラ見たくなくてずっと下向いてたし」


ふっ、どこまでも生意気な奴だな。
ここまでくると、逆に清々しいぜ。


「…お前、テニス部のマネージャーやる気ねぇか?」
「…どこからその発想が出てくるのよ」
「てめぇは他の奴と違ってギャーギャー言わねぇだろ?後は、やる気さえ出してくれたらいいんだがな」


こいつは自分の興味のあることしかやらねぇからな。


「…お断りよ。これ以上面倒な事になって欲しくない」
「それなら大丈夫だ。俺が守ってやる」
「…それが余計なお世話なのよ」
「ばーか。この俺様にかかれば雑魚なんてどうでもいいんだよ」
「ふふ。ほんと俺様だね、あんたは」
「アーン?」
「いいよ。マネになったげる。…でも、私は大勢の面倒を見る気は無い。レギュラー以外の面倒は見ないからね」
「ああ。それでいいぜ」
「じゃ。あと、あんたには期待してないから」
「はっ、減らず口を。…咲乱」


知ってるぜ?お前が絶対に人に心を許したり、信用したりしないって事。
強がってるだけで、本当はお前が寂しがりやなんだって事。
俺のインサイトをなめんじゃねえ。
本当は嬉しいんだろ?
だけど、それを上手く表現できない。
口下手なのを性格で誤魔化してんだ。


「…さて、お姫様は守ってやらねぇとな」


俺は明日が来る方向…太陽が昇る方を見て呟いた。