いけなかった。
単刀直入に『何者か』と聞いて。

貴女の口は……
偽り≠オか言葉に出せないから……―――





夕食も食べ終わり、それぞれの部屋に戻る。
私も、自分の部屋に戻った。


「はぁ……」


そして、ベッドに寝転がる。
隣の部屋には、氷帝メンバーがいる。
…少し、安心できる。


「………」


しばらく、ぼーっとしていた私は、散歩がてら部屋の外に出ることにした。
部屋から出て、すぐに会ったのは……





日吉side



「日吉」


振り返ると、咲乱さんが居た。


「…なんですか?」


突然話しかけられて、少し驚いた。
それにしても…何の用だろうか。


「前に…私に聞いたよね?『何者か』って…」
「……はい」


あの時…何故か気になって聞いた言葉。


「あの時の答え…あれは、本当だよ」


……本当…。
あの時、咲乱さんは『悪魔…存在してはいけない者』と言った。
それが、本当…。


「…本当に、そう思ってるんですか?」
「ええ…。というより、思うしかないのよ」


それは…誰と関係があるんですか?
あの、『織』という人ですか?
聞きたくても、俺からは聞けない。
俺達は…咲乱さんから話してくれるのを待つんだ。


「その、本当の意味が、明日…分かると思う…」


貴女のその表情は何を訴えている?
今にも、泣きそうな表情をしているのに、貴女自身は、気づいていますか?


「…ごめん、こんな事で呼び止めて」
「……いえ」
「それじゃ…少し、涼んでくる」


そう言うと、咲乱さんは行ってしまった。


「貴女は…すぐに表情に出ますね」


初めの頃とは大違い。
初めは、ただ無表情に、座った眼をしていた。
今では、自分を変えようと、未来を変えようとしている。

その……凛としたところに、惹かれているのは、自分でも気づかない。





咲乱side



「あっれぇ〜?咲乱じゃなぁい〜?」


妙に甲高い声……。
会わないように気をつけてたつもりが、ばったり会ってしまった。


「………」


私は、自分の部屋に引き返そうとした。


「…ちょっと待ちなさいよ」


だが、それも愛美の手で止められた。


「あんた…自分の立場、分かってんの?」
「……っ」


ギリギリと爪を食い込ませて私の腕を掴む。


「随分楽しんでるみたいじゃない」
「…そう見える?」
「…っ、むかつくのよっ!」


ダンッ、と壁に押さえつけられた。


「…何故?…自分の手に入れたいものは、手に入ったんでしょ?」
「…それ、青学のこと?ふふっ、笑わせないでよ。…あんなの、あんたを虐める駒でしかないんだから」


どんどん押さえつける強さが強くなる。


「…自分を引き立たせてくれるんじゃ、なかったの…?」
「青学なんて、飽きたわよ」


飽きた…か。
そうか…だから、次の狙いが…。


「…次は、立海と氷帝……?」
「うん、そうよ…だって、青学より良い男揃いだし?しばらくは愛美を引き立たせてくれればいいんだけどぉ…。やっぱり、アンタを虐めたいのよねぇ……」


愛美の声が、悪魔の囁きに聞こえる。


「……結局、貴女にとって、皆は何なの?」
「利用する物。愛美が一番になる為の道具よ」


道具…こいつは、人を道具だと思ってる…。


「……だったら、こんなことをして、貴女は一番になれるの?」
「ふふっ、あんたを虐めるのは楽しいから。初めは邪魔で消してやろうと思ってたんだけど。途中で凄く虐めが楽しくなっちゃって〜」
「……私は、貴女の玩具じゃない」
「あんたは愛美を楽しませてくれる最高の玩具。最後まで…、愛美を楽しませてくれるのよ」


人は、玩具じゃない……―――


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