たった一言。
簡単なようで、大事。

私のこの一言は
大事な…大事な一歩……―――





決心した時、食堂のドアが開いた。
誰か、すぐに分かった。
覚悟を……。
今度こそ、覚悟を……決める。


「あ〜腹減った〜」
「お、この匂いはカレーかにゃ?」


そう…勇気を持って、


「愛美が作ったんだろう?」
「え、えーとぉ…」


この人達と、前みたいに戻ろうとは思わない。


「うん、美味しそうだね」


戻りたくない。


「そ、そう…かな?」


私は…私なりに、この結末を迎える。


「愛美が作ったんなら美味いに決まってるにゃ〜」


勇気を出して、前と同じ末路にならないように。
丁度、氷帝とリョーマも食堂に来た。


「お、今日はカレーだな!」
「美味しそうだC〜!」
「姫さん、やっぱり料理上手なんやなぁ」


そう言って、私に近寄る。


「はぁ?ちょっと何言ってんスか、これは愛美先輩が作ったんスよ」
「え、あ…桃ちゃん…」


愛美が少しだけ焦りを見せた。


「アーン?何寝ぼけた事言ってやがる。なぁ、咲乱」


今。
今が、私が一歩を踏み出せる時。


「………青学の皆さん。期待を裏切るようで悪いけど、これは私が作った…」
「……は?」
「何言ってるんだよ、これは愛美先輩が作ったに決まって……」
「ちゃぁんと時間を見た方がいいぜぃ、桃城」
「そうだな、あんた達んとこの人、さっきまで話してたんだろ?」
「「「………」」」


愛美が来たのはついさっき。
こんな短時間でカレーが作れるはずがないのに…。
どうして愛美が作ったように思えるのかな…?


「はぁ…。桃先輩…これは咲乱先輩が作ったんスよ」
「!?越前っ、お前…」
「何スか?」
「なんでおチビがそっちに居んだよ〜!」
「それは自分で考えて下さい」
「…越前、お前は間違っているぞ」


…っ、このままじゃリョーマが嫌われちゃう…っ!


「り、リョーマは…っ」


言いかけたのを、精市が止める。


「間違ってるのは、先輩たちの方ッス」
「……越前」
「俺は…もう決めた」


睨みにも似た視線で青学を見ている。
そして、それと違った、真剣な目で私へと視線をそらした。
リョーマの決意が凄く伝わってくる。


「………」


でも、それをじっと見る…一人の男に、私は気づいていた。


「……もういいよ。早く食べないとカレーが冷めるよ?」


不二が淡々と言い、席に座る。
青学は少し不満がありそうだが、黙って席についた。
テーブルは各学校に座るようになっている。
愛美は、言わなくても分かるだろうが、皆に囲まれている。


「姫さん、俺の隣で食べへんか?」
「咲乱は俺の隣で食べるんだC〜」
「はぁ…激ダサだぜ、お前ら」
「じゃ、間を取って俺の隣に来いよ!」
「……岳人、お前もかよ」
「あはは、ついな」
「………」


凄い、賑やかな気がする。
いつまでもこの話が続きそうな気がした私は、別の…跡部と日吉の間に座った。


「あぁっ!姫さん……」
「ほら、早く食べたら?」


言うと、少し不満そうだったが皆は座り、カレーに手をつける。


「…咲乱」


隣の跡部が話しかけてきた。


「何?」
「もう、平気かよ」


言い方が優しい。
初めて、会った時のような言い方だ。


「ええ、もう平気。……これから、もっと酷くなるのに」


これくらい、我慢しないと。
最後の呟きは、跡部には聞こえてないだろう。


「そうか…何かあったら、言えよ」
「…ええ、そうする」


表情が少しきついのは、これから起こる事を考えているからだろうか。


「…日吉」
「…なんですか?」
「巻き込んで、ごめんね」


私の事がなければ、今頃テニスに打ち込めたのに。


「…いえ、それは、俺の意思ですから」


でも、こういう真っ直ぐな視線は、凄いと思う。
しっかりと、自分の意思で動ける姿は、とても凄い。


「…そう」


氷帝の皆の顔を見回してみる。
皆、楽しそうに話しながら食べている。
いつの間に、こんな笑顔の中に居たんだろう。
今でも信じられない。
本当に…貴方達には感謝している。
ちら、と青学を見ると、愛美が一瞬凄く睨んでいた気がした。
殺気立った目…そんなあなたたちの目を見るのは久しぶり。

そして、これから、思いもよらない事が起きるのは、
私……いや、誰もが、分かるはずもないだろう…。


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