何が正しいのか、分からない。

ただ
時間だけが、正確に過ぎてゆく……―――





フラッシュバック。
今の光景があの頃の光景と被った。
屋上で…皆に…詰め寄られて…。

「言えよ、お前の所為なんだろ!」

求めているのは、否定の言葉じゃなくて肯定の言葉。

「お前が……なんだろ!」

否定しても、聞いてもらえない。

「お前の所為で…あいつが…っ」
「あんなに、いい奴だったのに…っ」
「最低だね、君は」
「この……し!」


その言葉は、間違いであって、正解なのかもしれない。

「ひと…し!!」

何度も言われて、自分の存在の意味が分からなくなった。

「人殺し!!」


「…咲乱?」


私が黙って俯いているから、跡部が私の肩に手を置こうとした。


「っ、やあぁっ!」
「「「!?」」」


いきなりの私の叫びに皆が驚いている。
今の『咲乱』は、昔の『咲乱』になっている。
今、私は我を失っている。


「違う…っ、私じゃ、ない…っ!」
「「「……っ!」」」


尋常ではない様子の私に、皆はどうしていいか分からずに居た。


「違う…違う…っ!」
「おい、咲乱…落ち着…」


宍戸の手が私に触れようとした時、私は宍戸の手を思い切り振り払った。


「嫌だ!傷つくのはもう嫌!何度やれば気が済むの?」


私は早口で叫ぶ。


「私はあんた達の玩具じゃない!生きてるの!存在しているのっ!お願い…っ、どうして信じてくれないの?」


「誰がお前なんか信じるかよ」

架空の言葉が私の頭に響く。


「咲乱、落ち着け!」
「私は人殺しじゃない!私の所為じゃない!」
「「「…咲乱!?」」」


【人殺し】という単語を聞いたからか、レギュラーの顔もどんどん険しくなる。


「嫌っ!私は殺してなんかいない!」
「落ち着け!」
「…っ!」


跡部が私の両肩を掴み叫ぶ。
私は、言葉が詰まり叫びつかれたのか跡部の胸に倒れこんだ。



今の一瞬が、夢である事を願って……―――。





「……ぅ」
「気が付いたか?」
「…あと、べ…?」
「ああ」


一番に目に入った跡部の名を呼ぶと、跡部は優しく返事をしてくれた。


「…み…んな」


周りに目を回すと、皆も黙って頷いた。


「……わ、たし…?」
「叫びつかれて倒れたんですよ」
「……あぁ」


やっぱり、夢じゃなかった。
取り乱してしまった。
今まで、自分の意思を保ってきたのに。
あぁ…。


「もう、大丈夫か?」
「ええ…ちょっと昔の私に戻っただけだから」


今は、今の『咲乱』だ。


「…なぁ、教えてや、咲乱。…お前の過去に何があったんや?知らんと、俺等、何も出来へん」


珍しく、忍足が切なそうな顔をした。


「………」


皆も、同じような顔をしていた。


「…すぐ、分かるわ」
「え?」
「もうすぐ分かる。私が夢を見ていられるのはあと少し。だから、今日だけ…夢を見させて」


合宿に行ったら、今の私じゃなくなって。
皆は私の真実を知ってしまって。
私を見る目も変わってしまって。
私は、前みたいに一人、元の道を歩くだけ。


「「「………」」」


皆は、訳の分からないとでも言いたそうな顔をしていたが、
それ以上は問おうとしなかった。

そして、部活が始まった。
いつも通りドリンクを作り皆に渡す。


「ありがとさん」
「さんきゅ」


私に気を遣ってくれているのか、普段通り接してくれている皆。


「ん」


そしてドリンクを回収する。


「…跡部」
「なんだ?」
「…また、貴方に助けられたのね、私」


こう何度も助けられるのは後味が悪い。


「気にするな。約束だろ?」
「………」


本当、跡部の性格はよく掴めない。


「ほら、仕事に戻れ」
「………」


私は無言で部室に戻った。


「……咲乱」


跡部が、不安そうな顔をしているのには気づかなかったが。



そして、舞台は第2章へ……―――


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