神という存在は
本当に居るのだろうか。

居るとしたら、
私は…一生、恨む……―――





「「「合同合宿?」」」
「そうだ。1週間の3校合同だ」


どうやら、明後日に合同合宿があるらしい。
今日は、合宿についての説明を行うみたい。


「…それって、私も行くの?」
「当たり前だ」


……面倒臭い。


「…で、その他の2校は何処なん?」
「あぁ、……まずは立海…」


ふうん、立海の皆と一緒か…。
それなら楽しくなりそう…。


「へぇ、立海ですか」
「それは楽しみやなぁ」


ふと、外を見ると、やはり昼間の天気の悪さからか、雨が降っていた。
バケツをいっきに引っ繰り返したみたいに。
それを知ってか知らずか、跡部が口を開く。


「……それと、 《ピッシャーン》 ……だ」


跡部がその言葉を言ったのと同時に、雷が鳴った。


「……っ」
「え?何だって?雷で聞こえなかったぜ」
「俺もです」


皆には雷で聞こえなかったみたいだけど、私には、その言葉がはっきりと聞こえた。
もう一度、脳裏で跡部の言葉を確認する。
それは、

私の一番聞きたく無い場所。
私を地獄に陥れた場所。
私の存在を変えた場所。


「…っ!?」
「姫さん、どうしたんや?」


忍足に指摘され、自分が震えていることに気が付く。


「なん…でも、ない…」
「雷が、怖いんですか?」
「…?」


雷…。
確かに、雷にも嫌な記憶はある。
私は、答えずにただ俯いた。


「何だ?雷が怖ぇのか?」


違う。
もっと、恐ろしい記憶が、私の頭をぐるぐる回る。


「なんや、可愛いなぁ」
「へぇ、意外な一面だな」


違う…違う…っ!
今すぐこの場から飛び出したいのに、足が根を張ったように動かない。
恐怖で動けないのもあるのかもしれないけど、
跡部のさっきの話の内容をはっきりさせたいのもあるかもしれない。


「…それで、もう一つの学校はどこなんですか?」


日吉が話題を戻した。





「ああ、………青学だ」





――……っ!!
や、…やっぱり……。


「へぇ、青学かぁ!」
「久しぶりやなぁ、会うんも」


どうやら、氷帝の皆は会うのは久しぶりらしい。


「ひ、久しぶりって…どのくらい?」
「そうだなぁ…半年くらいじゃね?」


半年…その頃の青学は地獄だった。
いや…、
今でも、私の中では地獄のような場所。


「へへ、久しぶりに菊丸とジャンプ対決が出来るぜ!」
「…っ!」


聞きたくない名前。
思い出したくない名前。
駄目…っ、もう限界…!

私は勢いよく椅子から立ち上がった。


「?どうしたんだ?」
「あ…ぁ…っ」


頭に思い浮かんだ事でいっぱいになり、漏れたのはか細い声。
言葉にしようとしても、うまく口が開かない。
唾液が全て渇いてしまったかのようで……舌が回らない。


「「「?」」」
「や…っ」


私の頭の中で様々な記憶が飛び交う。
記憶と現実の区別がつかない…っ!


「ま…だ、」


会いたく、ない…っ!


「……どうし―――」
「いや…っ!」


触れようとした忍足の腕を、振り払った。
そして私は勢いよく土砂降りの雨の中へ飛び出した。


「おい、咲乱 …っ!」


跡部や皆の私を呼ぶ声が聞こえたが、私はそのまま走り続けた。


「や…っ、…っあ!」


だが、途中で石につまずき転んでしまった。


「う…っ」


神様……―――。


「わ、たしは…」


幸せを掴むことは許されないのですか?


「ただ…っ」


静かに暮らしたいだけ。


「なのに…」


まだ、地獄を見なければいけないのですか…?


ねぇ、教えてください、神様。

私はこういう運命なのですか……―――?