夢と現実。

一体、どちらが幸せか―――





氷帝レギュラーたちが来た。
来るタイミング、良すぎじゃない?
…ま、どうでもいいけど。


「あれ?宍戸?」
「自分もサボりか?」
「あー…今日の授業かったりーのばっかでよ」
「お前、受けなくて大丈夫かよ」
「午前くらい平気だぜ」


レギュラーが他愛も無い会話をする。
私はそれを聞きながらお弁当を食べる。


「…姫さんの弁当、美味そうやな」


忍足が私のお弁当を見ながら言った。
……姫ってなによ。


「これ、お前が作ってんのかよ?」
「…そうよ」


小さい頃からずっと、ね。


「料理、上手なんですね」
「…不味いわよ」
「とてもそうは見えませんよ」
「………」


これ以上言っても同じことを言われるだけだろう。


「…それよりお前ら」


跡部が新しい話題を切り出した。


「今日の部活はミーティングだからな、忘れるんじゃねぇぞ」
「……それって、」
「心配するな、テニスの事だ」


最近、私のことでまともに練習してないからな…。


「そか。それならええんや」
「…あ、もうそろそろ昼休みも終わりますよ」
「まじかよ、早ぇな」
「ほな俺等行くわ」
「そう、じゃあまた後で」
「ああ、またな」


そう言ってジロー以外、皆帰っていった。
宍戸も、午後の授業は受けるみたい。


「はぁ…ほんと、憂鬱」


あれからどんどん雲行きが怪しくなる。
さっきまで半分顔を出していた太陽も、いつの間にか見えなくなっていた。


「………」


何だか…凄く眠い。
いきなり襲ってきた睡魔に誘われて、私は夢の中へと吸い込まれた。

「私は、咲乱の親友だよ」

その言葉は、

「僕は、咲乱を信じるよ」

偽りの言葉。

「あれ?まだ存在してたんだ?」

それなら、

「早く消えろよな」

ありのままの言葉の方が良い。

「随分可愛がられてるみたいじゃん」

ただ、些細な幸せを掴みたいだけなのに、

「お前の存在がうざいんだよ」

風のようにすり抜けてく。


「……ね…ぇ、」


これは…夢?
それとも…現実?





「…咲乱、」


目を開けると、見覚えのある顔。


「…ジロー…」
「やっと起きたCー。何だか少し魘されてたよ?大丈夫?」
「あ…。な、何でもないから」


良かった…夢だった。


「そう?それじゃー、部室行こ?」


もう、そんな時間なのか…。


「そうね」


私はジローと一緒に部室に向かった。
途中嫌な視線が向けられたが、どうでもいい事。

…ガチャ。

部室に入ると、既にレギュラーが揃っていた。


「姫さん、ジロー、遅いで?」


微笑みながら優しく言う忍足。


「はは、どうせ寝過ごしたんだろ?」


意味無く飛び跳ねながら言う向日。


「ま、いつものことだけどよ」


少し呆れた顔をして言う宍戸。


「でも、少し遅れただけだし…」


気を遣ってくれているのかフォローを入れる鳳。


「でも、遅刻は遅刻ですよ」


厳しいことを言ってるけど、責任感が強い日吉。


「日吉きっびC〜!」


起きてる時は煩いジロー。


「まぁ、今回は見逃してやる」


俺様だけど結構助けてもらった(不本意だけど)跡部。

全員が私のことを理解しようとしてくれている。
珍しい集団だ。
だけど、嫌いじゃない。


「…それで、何の話なの?」


こんな生意気な態度をとっても、


「まぁ、立ち話もなんやし、座り?」


優しく声を掛けてくれて、


「…どっかの主婦みてぇだぜ?」
「ま、気にしんとき」


普通に接してくれて、


「…それで、内容はだな……」


私を、受け入れてくれる。


この時は、私にも幸せが訪れると、少しでも期待していたのかもしれない。
でも…やっぱり私は、神様に見放されているのかもしれない。


×