晴れ 曇り 雨 雪 雷

どれも、人の感情みたいじゃない―――?





跡部side



「よお」
「おはよう」


ここは校門。
昨日の事のせいか、咲乱の雰囲気が少し変わっているような気がした。


「授業は受けるのか?」
「…受けるわけないでしょ」


…だが、それでもやはり自分の興味無いものには関心が無いな。


「…また屋上か?」
「ええ。…あそこは私の居場所だから」
「…そうか」


何故咲乱は屋上に執着するのかは分からない。
だが、屋上に居る時の咲乱は、とても穏やかに見える。


「昼…行くからな」
「…好きにすれば」


まだ素直に本音を言えないのも分かった。


「それじゃ」
「ああ」


そうして俺は教室に行く。
そして、席に着いて早々、


「なぁ、跡部」


忍足に話しかけられた。


「何だ?」
「姫さんは?」


姫と呼ぶのはこいつなりの表現だろう。


「屋上だとよ」
「……そか」


こいつも、初めとは違って真剣に咲乱のことを考えてるみたいだ。
…俺からしてみれば、そんな忍足は珍しいな。


「良かったな、姫さんに信じてもらえて」
「…そうだな」
「……でも、いつか俺等に話してくれるやろか」
「…過去の事か?」
「せや」
「…分かんねぇな」


俺も、気になってはいる。
聞きたい、知りたいと思っている。
でも正直、教えてもらえないだろうとも思っている。


「だが、俺は咲乱を信じている。お前もそうだろ?」
「…ああ」
「ふっ、だったらその思いが咲乱に届く事だけを考えてろ」


いつか、話してくれると信じている。


「ああ…せやな」


話も終わったところで、俺達は昼まで普通通り授業を受けた。





咲乱side



「ふぅ…」


何だか、いつもより気持ちが落ち着いている。
これも…立海や、氷帝の皆のおかげかな?


「あら?今日は曇りがかってるわ…」


何時ものように空を見上げると、何時もの晴天とは違い、雲は太陽を半分くらい隠している。
この雲の量なら、雨が降りそうなくらい。


「…何だか、嫌な予感がするわ」


私の身に異変が起きるのはいつも雨。
いつも、いつも雨。


「…まさかね」


最近ずっと晴天だったし、そんなに気にする事でもないわ。


「あれ〜?咲乱〜?」
「…あんた、」
「あ、やっぱり〜」
「…今は授業中よ?受けなくていいの?」
「それは咲乱も同じだC〜。俺は寝る〜…」


そう言って私の横にストン、と座った。
それにしても、よく寝るわね。
寝つきの良さ、少し羨ましいかも。


「…ねぇ、咲乱〜」
「……寝たんじゃないの?」
「ん〜起きた」


そうやってにっこりと笑う。


「…それで、何?」
「あのね〜…俺のこと、名前で呼んで欲しいC〜」
「………」


前も同じことを言われたな…。
その時は、まだ名前で呼べないと思ってたんだっけ。


「ね?Eーでしょ?」


……そうね、信じるって決めたし…。
名前で呼んでみても…いいかな?


「…わかった」
「やった〜うれC〜!」


そうやって片手でガッツポーズをつくる。


「じゃあ、呼んでみて!」
「あー…なんて?」
「ジロー!」
「あー、分かったわ。…ジロー」
「えへへ〜」


完全に目が覚めたのか、はしゃいでいる。
はぁ…元気が良いわね…。
呆れながらジローを見ていると、ガチャ、とドアが開く音が聞こえた。


「………」
「………宍戸」





宍戸side



びっくりした。
ドアを開けたらはしゃいでるジローとそれを見ている咲乱。


「………」


その雰囲気が妙に飲み込めなくて少し間が空く。


「………宍戸」


咲乱がこっちを見て言う。
その言葉で俺は我に返った。


「あ…、ああ」
「宍戸もこっちでお昼寝しよーよー!」


ジローが笑顔で俺を手招きする。
ちら、と咲乱を見ると目が合った。


「授業はサボり?」
「…そういうお前もそーだろ」
「あんなの、くだらなさ過ぎるわ」


…思った通りの返事だな。
傍から見れば冷たい言葉だが、俺等からしたら大分マシになった。


「Zzz…」



いつの間にかジローは寝てる…。
緊張感無ぇな…。


「……座ったら?」
「あ…、あぁ」


そういえばずっと立ちっぱなしだな、俺。
そして、咲乱とジローの前に座る。


「…よく寝るわね、ジロー」
「ああ、起きてる方が珍しいくらいだからな」


…あれ?こいつ、ジローの事名前で呼んでたっけ?


「…幸せそうな寝顔ね」


咲乱がジローの顔を見ながら言う。


「…そうだな、寝ることが好きだからな」
「…好き、か…」
「は?」
「貴方は、テニス好き?」
「ん?…あぁ、好きだぜ」


突然の質問にビビったが、答えは簡単だ。


「…そう」
「「………」」


気まずい……。
思えば咲乱と二人きりなのは初めてだ。
……ジローは今は除外しておく。


「そ、そろそろ昼だな」
「そうね。あいつらもそろそろ来る頃…」


ガチャ。
丁度咲乱が言ったすぐ後に来た。


空は相変わらず曇り。
雲も変化が大きい。

俺らの中でも、変化が起きようとしているのは、まだ、誰も知らない。


×