出会いとは、
遅かれ早かれ、あるもの。

もうちょっと、早く出会っていれば。
私は、今の私じゃなかったのかもしれない……―――





「……どうして、もっと早く出会わなかったんだろう…。私は何も持って無い。全て…失くしちゃった」


信頼も簡単にしない。
感情も表情も、他人に悟られないようにしてきた。


「…捨てたの。奪われたの。…こんな私なのに、どうしてそんな事言ってくれるの?」


自分の生か死かも、選べない。
弱い、人間なのに…。


「…私の事に、気づいて欲しくなかった。触れて欲しくなかった」


私の心に気づかないで、触れないで。
私の心なんて、誰も知らなくていい。知らないほうがいい。
だから…全て、失ったのに。
だから何もかも諦めたのに。


「今まで、自分なんてどうでも良かったのに…。存在しなくていいと思ってたのに……」


ずっと、そう思ってきた。
…なのに。


「あんた達に出会って…少し期待して…本当、馬鹿なのよ、私は」


また、同じ事を繰り返すかもしれない。
だけど…、
……っ、だめ…言っちゃだめ…。


「…でも、」


全部失って、振り返らないって決めたのに…。


「………寂しい…。私は、存在して…いいの?」


そんな事、言っちゃだめなのに……っ。
涙が出てきそうなのを我慢して、皆の表情を見ると、とても切なそうな顔をしていた。


「…咲乱、こんなになるまで、動けなくてごめん」
「もっと、お前の事を考えていれば…」
「やっぱり、あの時…」
「無理にでも助けに行っていれば…っ」
「咲乱の気持ちに気づいていれば…」
「こんなにも、咲乱は傷つかなかったんじゃ…」
「俺たちが何もできなかったから…」
「…俺達の力不足ッス…っ!」


精市…弦一郎…蓮二…比呂士…ブン太…雅治…ジャッカル…赤也…。
皆は悪くない。
全て、私が悪いの。
皆を巻き込んでしまった。

…あの時、私を支えてくれたのは皆だけだったけど、信用していたのと同時に、少し、不安だったの。
皆を信じていいのか、分からなかったの。
それで…皆には中途半端な気持ちにさせてしまった。
そう…悪いのは全て私。


「…自分を責めないで…私が苦しくなる」


言うと、立海の皆は下げていた顔を少し上げた。


「…これからは、何があっても絶対に咲乱を守るよ」
「忘れるんじゃなかよ。俺等は味方じゃ」
「……うん」


守る…味方…。
貴方達は何時も優しい言葉を掛けてくれる。
本当に、安心できる。


「…で、氷帝の皆は…」
「…っ、俺達も…っ」
「精市、もういいの。私…信じてみたい」
「……咲乱、」
「……本当は怖い…不安…。だけど、今のままは嫌だから。少しでも、純粋に人を信じたい」


それは、本心だった。
私は、決して綺麗じゃないから。
でも、綺麗でいたいと心の片隅で思っている。
少しでも、今の自分から変わりたいと思っている。


「……そう。咲乱、決心したんだね」


精市が優しく微笑んだ。


「…咲乱」


氷帝の皆は、嬉しさと驚きの表情を浮かべている様。


「俺たち、咲乱のこと絶対守ったるで」
「俺も。いつでも相談してくれよな」
「何かあったら言えよ」
「俺達、絶対力になりますから」
「いつでも頼ってください」


皆の言葉の一つ一つが、純粋に嬉しかった。


「うん…。でも、まだ私のことは話せない」
「ああ、いいぜ」


まだ、言うのが怖い。
思い出すのが怖い。
もしかしたら、氷帝の皆に嫌われてしまうかもしれない。
まだ…私にはそんな勇気ない。


「…そうか、これで少し安心したな」
「ああ、そうだな」


立海の皆も少しほっとしたような表情を見せた。


「…もうこんな時間だね。跡部、練習試合、出来なくて悪かったね」
「んなの別にいいんだよ」
「ならば、俺達は帰るとしよう」
「咲乱のこと、よろしく頼むぜよ」
「勿論、俺達も守るぜぃ」
「皆…やっぱり巻き込んじゃったわね」
「いいんスよ、そんなの気にしなくて!」
「そうだぜ」
「…うん」


そうして立海の皆は神奈川に戻っていった。


「…今日は、いきなりごめんね」
「いーんだよ、気にすんな」
「そうや、何だかんだ言うても、姫さんに信じてもらえたんやからな」
「…うん」


これから…私も変われるかな?