『笑う』には 色々な使い方がある。

本当に心から笑う時もあれば
自分の心を隠す為に笑う時もある。

昔の私は 後者。
そして 前者でもある。

貴女は どっち……―――?





そして私は屋上に向かう。
授業なんかもう受けるつもりない。


「……あいつ」


私の定位置に金髪男が居る。


「起きて」


傍に寄り、起こす。
それにしも、相変わらず無防備な寝顔ね。


「んぁ…?なに…時間?」
「そうよ」
「……綺麗だC…」
「…は?」


寝ぼけてるのか、私の髪を取る。


「空に透けて、綺麗…」


透けて…か。
そのまま、私の存在自体が透けてたらいいのに。


「綺麗なわけないわ…」
「蓮杖は授業受けないの?」


私の呟きは芥川の声で消された。


「…授業なんてどうでもいい」


あんなもの、世の中では役に立たない。


「ふーん…じゃあ一緒に寝よー!」
「……膝枕はしないわよ」
「Aー!だめ?」
「だめ。自分で寝てて」
「…蓮杖って、どうしていつも無表情なの?」
「……は?」


さっきの芥川からは想像できない質問に、一瞬驚いた。


「ほら、蓮杖綺麗だしさ…笑ったら、可愛いよ」


……笑ったら…か。
笑い方なんて、もう忘れたわよ。
私の人生に、笑っていい時なんて無かった。
……一時、あったかな…?
でも、そんなの、すぐに無くなったわ。


「…笑うのなんて、疲れるだけじゃない」


そう、無理に笑ってどうするの?


「そう?笑ったら何か楽しいじゃん!」
「…楽しいから笑うんじゃないの?」


楽しく無いのに、笑うなんて出来ない。


「ん?そんなのどうでもいいC!」


はぁ…こいつの考えにはついていけない。


「寝たら?芥川」
「うーん…ねぇ、名前で呼んでよ!ジローって!」


名前…か。
…だめ、私は名前で呼べない。


「嫌。私は名前では呼ばない主義だから」
「Aー!…じゃあ俺、咲乱って呼んでEー?」
「…好きにしたら?」


別に、何て呼ばれようがどうでもいい。
…自分の名前に、何の価値も無いし。


「やったー!」


こいつ…私と居て楽しいのかしら?
私はいい加減、疲れたわ。


「早く寝たら?」
「うん!おやすみー」
「おやすみ」


芥川は地面を枕にして眠りについた。





芥川side



蓮杖って、初めて見た時から気になってたC。
生意気って言う人が多いけど、俺はよく分かんない。


「……綺麗だC…」
「……は?」
「空に透けて、綺麗…」


綺麗って言ったら、蓮杖は辛そうな顔をした。


「綺麗なわけないわ…」


この呟きも、俺はしっかり聞いてた。
無表情だけど、他の人より、ずっと綺麗。


「蓮杖は授業受けないの?」
「…授業なんてどうでもいい」


本当にどうでもよさそうな顔。
ま、俺もどうでもいいからここに居るんだけどさ。


「ふーん…じゃあ一緒に寝よー!」
「……膝枕はしないわよ」
「Aー!だめ?」
「だめ。自分で寝てて」


こうやって言葉を交わすと、何か少し嬉しくなった。
でも、蓮杖は無表情。
何で?


「…蓮杖って、どうしていつも無表情なの?」
「……は?」


蓮杖は少し驚いた顔を見せた。


「ほら、蓮杖綺麗だしさ…笑ったら、可愛いよ」


笑ったら。
なんて、少し嘘。
蓮杖は、笑って無くても可愛い……ううん、綺麗かな。


「…笑うのなんて、疲れるだけじゃない」


疲れる…か。
てことは、笑った事あるんだ。


「そう?笑ったら何か楽しいじゃん!」
「…楽しいから笑うんじゃないの?」
「ん?そんなのどうでもいいC!」


冗談に聞こえるかもしれねぇけど、本気。
でも、蓮杖は少し呆れた顔をして、


「寝たら?芥川」


初めて俺の名前を呼んでくれた。…でも、


「うーん…ねぇ、名前で呼んでよ!ジローって!」
「嫌。私は名前では呼ばない主義だから」


主義って…何か凄い言い方だC…。
でも、多分違うんだろうなぁ……。


「Aー!…じゃあ俺、咲乱って呼んでEー?」


多分、呼ばせてもらえないと思う。
でも、返ってきた言葉は、嬉しいものだった。


「…好きにしたら?」
「やったー!」


俺は本気で嬉しかった。
少し、本当の蓮杖…ううん、咲乱と近づけたみたいで。


「早く寝たら?」
「うん!おやすみー」
「おやすみ」


話が出来て嬉しかった。
少し、本当の咲乱が見えたようで。

もっと…知りたいな…。