思い出は
夢の中までも
侵入してくる……。

ひどく繊細なほどに―――





あれからは誰とも会わずに家に帰ることが出来た。
はぁ……今日は疲れた…。
何だか、レギュラーの一人一人に関わってない?
何か、嫌な予感がする。
これから、私の人生が変わるような…そんな予感。


「……寝よう」


考えても、未来の事は分からない。
私は深い眠りについた。


「君、何でここに居るの?」
「何であんたなんかが生きてるんスかね」
「あんたなんか生まれてこなきゃよかった」―――



「…っ!」


……嫌な、夢を見た。
あの頃の、忌々しい夢。

眩しいほどの朝日がカーテン越しに私の元に届く。
…そんなに私を照らさないで。
私の汚れが、引き立つから。
そんな事を思いながら着替えを済ます。
…そういえば、朝練があるって言ってたような気がする。

ピンポーン…。

…誰かしら?
私の家に来る人なんて。
ドアを睨む。
ドアの向こうに、誰が居るのか…。

ピンポーン、ピンポーン…。


「……うるさいわよ」


ドアを開けると、見慣れた顔が一つ。


「…だったら早く来いよ」
「…何であんたが居るの…跡部」
「朝練の事、忘れて寝坊なんてしてねぇな?」
「…忘れてないわよ」
「ならいいが…さあ、乗れ」


私が制服を着ているのに気づいたのか、やけに長い車を指差す。


「嫌だ。…目立つ」
「いいから乗れ」


…この自己中心的男…。
私は無理矢理跡部に引っ張られて長い車に乗った。


「………」


車の中では特に話すことなど無く、静かに学校まで着いた。


「ほら、出るぜ」
「………」


だから目立つって…。
車から出ると、やっぱり周りのざわつき。
こいつ…自分でやってる事分かってんのかしら?


「…何であいつが跡部様と…」
「うっざー…」
「自分の身分分かってるのかしら…?」


あー…うるさい。
凄い耳障り。
あんた達だって、私にそんな事を言う権利、どこにあるのよ。


「うるせえぞ。少しは黙ってろ」


いきなりの跡部の声。
周りの奴等は一瞬で黙る。
…流石は学園の跡部様…かしら?

それからは静かなまま部室に向かった。
そして今、私はドリンクを作ってる。


「…これから大変になりそう…」


朝の事もあるし、マネという事で周りの眼つきが鋭くなった。
…ま、どうでもいい事だけど。

「君、何でここに居るの?」
「何であんたなんかが生きてるんスかね」
「あんたなんか生まれてこなきゃ良かった」―――


…朝の夢の事が頭を過ぎる。
はぁ…憂鬱だわ。


「……行こ」


ドリンクが出来たからレギュラーに持って行く。
…やはりギャラリーの視線が私の方へ向く。


「ほら、ドリンク」
「あー貰うぜ」
「貰います」
「ちょっと待った」
「……?」
「…向日と日吉はこっち」
「…何でですか?」
「あんた達のプレーは体力の消費が多いでしょ?少しでも疲労回復出来るようによ」


そうして他のとは違う、赤の線が入ったコップを渡す。


「あ、ああ…さんきゅ」
「…どうも」
「次からこのコップに入ってるから」
「何や、凄いなぁ」


……何かおかしかったかしら?
だって、プレーによってドリンクを変えるのとか、普通でしょ?


「…それくらい普通でしょ?いちいちお礼とか言わないで」


お礼なんて、所詮口だけで心から思ってないものだし。


「…終わりだ」


跡部の言葉で朝練が終了した。