嫌な気分だった。
こいつの生意気さに。
面倒だと思った。
こいつみたいな奴と関わるのが。

……その気持ちは、変わるのか…―――?





宍戸side



蓮杖って、変な奴だな…。

さっきの事…確かに俺もむかついたけどよ、何ていうか……。
そういう感情を表に出さずに、無表情って所が気に入らねぇ…。
何かよ…不気味じゃねぇか?
怒ってるのに冷静に無表情で言い返すってのはよ。
何があんのか知らねぇけど、ああやって返される方もむかつくよな…。
ギャラリーの気持ちも分かるぜ。


「そこの帽子くん」
「……俺か?」


帽子って……名前で呼べよ。


「そう。ちょっと右足首見せて」
「はぁ?何でだよ」
「練習してたとき…捻ったでしょ?」


…何で、知ってんだよ。
誰にも気付かれねぇように振舞ってんのに。


「えっ?そうなんですか?宍戸さん」


ほら、長太郎だって気付いてねぇ。


「…これくらい何でもねぇよ」


何か、こいつに関わりたくねぇ。


「関わりたく無いのは分かるけど、悪化したらどうするの?ほら、座って」


!?…一瞬、心を読まれたかと思った。
それほどに…今の言葉は俺の図星をついていた。


「っ…、分かったぜ」


こいつ…もしかしてわざと…。


「んー…そんなに赤くないわね。じゃあ湿布貼るから」


…こうしてると、普通なんだけどな…。


「…俺、全然気付きませんでした…」


当たり前だ。
…これくらい、何ともねぇのに。


「捻ったくらい、って思ってるだろうけど、小さな怪我でもなめない方がいいわよ」


何だよ…。
まるで、自分が体験したかのような言い方。
…こいつに言われると何か、言い返せねぇ。


「…じゃあ、行くぜ」


早くこの場から立ち去りてぇ。


「ちょっと待った。そっちのでかい子、あんたも右手首捻ったでしょ」
「…え?何で知ってるんですか?」


何だって?長太郎も…?


「…傍から見てると分かるのよ。ほら、見せて。……はい、これでよし」


……全然気付かなかったぜ。


「あ、ありがとうございます」
「これくらい当然でしょ?お礼なんか言わなくていいわ」


当然……か。


「じゃ、今度は怪我しないようにね、帽子くんに、でかい子」
「…あの、名前で呼んでください」


…はぁ?
長太郎、何言ってんだ?


「………忘れた」


忘れた…って……さっき自己紹介したばっかなのに、普通忘れるか?


「はぁ…。俺は鳳長太郎です。今度は覚えてくださいね?」


…別に、忘れた奴に覚えてなんて言ったって無駄じゃねぇか?


「はいはい。分かった」


…こいつも、忘れたくせに偉そうに…。


「…ほら、宍戸さんも」
「…俺も言うのかよ?」


何で俺が…別にいいじゃねぇか、関係ねぇんだし。


「そうです」
「……宍戸だ」


…長太郎は頑固だからな…仕方ねぇ。


「んー…鳳に宍戸ね…多分覚えてるわ」


多分って…こいつ、一言余計なんだよ。


「それでは、さようなら」
「ん、さようなら」


…全然分かんねえ。
蓮杖っていう人間が。
何をしたいのか、何を考えているのか。
全く分かんねえ。

俺には関係の無い事なのに、何かスッキリしねえ。


……もしかして俺、あいつのこと気になってんのか?