与えられる幸せ。
感じられる喜び。

これほど贅沢なことはない―――





「咲乱〜〜っ、ドリンクちょーだい!」
「あ、ジローったら。まだ練習始まったばかりよ?」
「A〜、だめ?」
「だめ」
「ん〜じゃあ、咲乱が跡部に内緒にしてくれればいいC〜っ!」
「何を内緒にするって?」
「っあ、跡部!」


あれから数ヶ月。
皆は約束を果たす為に毎日練習に励んでいる。
私も、皆のおかげで充実した時を過ごしている。


「ったくお前は……咲乱に甘えるなって言っただろ?」
「ぶー!だって、跡部だけずるいCー!」
「そうやで?自分だけ姫さんを独り占めやもんな?」
「……うるせ」
「でも、本当に驚きました。まさか、跡部さんと咲乱さんが付き合うことにしたなんて」


そう、私は跡部……ううん、景吾と付き合うことにした。


「跡部が好きになるのは分かるけどよ…、咲乱が跡部を、なんてな……」


亮は少し膨れて言うけど、ちゃんと好きなの。
いつも、私が困っている時や寂しい時に守ってくれたのは景吾だった。


「だから、侑士もジローもそういう事は言わないの」
「んー……。まぁ、姫さんがそう言うんならしゃあないな」
「うー、咲乱ー…」
「くそくそ跡部っ!」
「……下剋上、したいところですけどね」
「岳人も若も、初めて聞いたときは祝ってくれたじゃない」


告げたのは景吾。
なんでも、今言わないと後から面倒になる、からだって。


「だってよ、あん時…咲乱、顔赤かったんだぜ?」
「自分では気付いてないみたいでしたけど」
「っ…そ、そうだったかしら……」


そりゃあ、皆にこんな事が分かるのは少しそういう気持ちもあった……。


「跡部は抜け駆けが得意やもんな」
「あーん?何だと?」


さて、こういう騒ぎになるのはいつもの事として。
止めるのも私の仕事の一つ。
なんたって、部長までああなんだから。


「ほら皆、練習に戻って。じゃないと、折角のドリンクが温くなっちゃうよ」
「それは嫌だなっ。よし、皆やろーぜ!」
「あ、岳人っ!ずるい〜!」
「姫さんのドリンク、一番に飲んだるからな?」
「ほら忍足さん、行きますよっ」


こうして皆が練習に戻る。
自然と笑みが零れてくるのは、貴方達の所為よ。


「……咲乱」
「景吾…。練習は……」
「俺は別にいーだろ」
「あ、そんなんじゃ、部長としてだめでしょ?」
「ふん、俺は、部長である以前にお前の恋人だ」
「な、何よいきなり……」


暑さにやられたのかと思ってしまった。


「好きな奴を心配するのは当然だろ?」
「え、心配って……」


すると、景吾はタオルで私の額を拭いた。


「こんなに汗だくになりやがって。疲れてるんなら言えよ」
「あ……」


最近、よく見るようになったこの微笑。


「ほら、ベンチで少し休んでろ」


そう言って、私をベンチまで連れて行ってくれる。
私も素直にそのベンチに座り、その隣に景吾も座った。
そしてしばらく休んでいると、


「……なぁ、咲乱」
「…何?」


すると景吾は、少し真剣になって、でも少し柔らかく、


「今、幸せか?」


私を見つめて聞いてきた。
突然の質問だったけど、私は少し微笑む。
答えはもう、決まってる。


「うん、勿体無いくらい幸せ」


そう言うと、景吾は私を抱き締めてくれた。
肌から伝わってくる幸せと
気持ちによる幸せ。
それを同時に感じている私は、贅沢なくらい幸せだよ。


「………好き、景吾」
「…俺もだ。好き…………いや、愛してる」


仲間と感じる幸せ。
愛する人と感じる幸せ。
どちらも、同じくらい感じている。

今なら、胸を張って言えます。

私は今、とても幸せです。
不幸なんて、感じていません。

私は、皆のおかげで幸せになることができました。


本当に、ありがとう―――