人の想い、記憶まで変えられる。
そんな事ができるのは、貴方達だけだよ。

私を信じ、守り抜いてくれた人。
私が心から信用することのできた人―――





皆にまた会うと約束をし、しばらくのお別れを告げた。
そして今は氷帝のバスの中。


「……咲乱、またこうやって咲乱と話せるの、凄い嬉しいよ…」


言ったのはジロー。


「あの時…もう…、こんな日は来ないかと思った……」
「…そんな事言うなよ、ジロー…。……っ泣きたく、なっちまうだろ…」


向日がジローを落ち着かせる。


「……私も、こうやってまた顔を合わせるなんて思ってなかった」


あの時で終わりにして、未練を断ち切るつもりだった。
でも、今思うと。
たとえあの時飛び降りたとしても、未練は切れなかったと思う。


「咲乱、これからは俺達に任せや?何度も言うたけど、必ず咲乱を幸せにしたる」
「…ありがとう」


こうして今、貴方達の優しさを感じていられるのは、生きているから。
もし死んだら、一生私に幸せは来なかった。
周助の本当の気持ちも
愛美も想いも
青学の皆の辛さも……。

全て解ったから、本当の幸せが今……。


「ありがとう、皆」


貴方達のおかげ。
氷帝での私を救ってくれた、皆の……。


「んな改まって言うなよ…。もう深く考え込むことはねぇんだから」


宍戸の優しい言葉に、じわりと涙が流れそうだった。


「………うん」


この時、期待した。
皆となら幸せになれる―――

きっと。
この人たちなら……。
確実な期待だった。


「……着いたぜ」


この、氷帝でも。


「また、氷帝に来るなんてね……」


二度と来ないと思っていた場所。
辛いだけの場所。


「心配はいらねえ。俺達がついてるからな」


跡部が、優しい微笑を向ける。


「……そうね」


貴方達となら、もう怖くない。
辛かった日々も、
耐え難かった視線も、
もうすぐ……。
大切な思い出になる。

貴方達が……
思い出に変えてくれる。


「……………ただいま」


誰にも聞こえない小さな声で、氷帝に踏み込む時に呟いた。



今はまだ、苦しい記憶が残ってる。
でも、それが思い出に変わった時。

本当に、幸せを感じることができる。

それは、普段では感じることができない。
一瞬の幸せ。
それでも、確かに感じられるから。
それで充分だよ。
だって、知ることが出来たから。
人を信じる事の偉大さを。
自分の中に、素直な気持ちがあれば、必ず路は開けると。

そう教えてくれたのは、信じている人達だったから―――





-HAPPY END-